ESD 環境教育モデルプログラムーはじめにー

●環境教育のねらい

環境教育における対象は、環境や自然と人間との関わり、環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式との関わりなど必ずしも一つの解に収れんしない複雑な問題が多いことがその特徴です。そのため、持続可能な社会の構築という視点から、「環境」を捉え直す機会を提供し、そこに子供が立ち向かい解決しようとする過程において環境保全についての理解を深めることが求められます。


環境教育に関連する法律
2006年 改正教育基本法 教育の目標の一つ

生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと


2007年 学校教育法の一部を改正する法律 義務教育の目標の一つ

学校内外における自然体験活動を促進し,生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと

2011年 環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律の一部を改正する法律(環境教育等促進法)
(定義)「環境教育」とは,持続可能な社会の構築を目指して,家庭,学校,職場,地域その他のあらゆる場において,環境と社会,経済及び文化とのつながりその他環境保全についての理解を深めるために行われる環境の保全に関する教育及び学習をいう

●持続可能な開発のための教育(ESD)と環境教育

持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)とは、「持続可能な社会の担い手を育む教育」のことです。

ESDは、環境的視点、経済的視点、社会・文化的視点から、より質の高い生活を次世代も含む全ての人々にもたらすことのできる開発や発展を目指した教育であり、持続可能な未来や社会の構築のために行動できる人の育成を目的としているものです。

2016年3月に、持続可能な開発のための教育に関する関係省庁連絡会議が策定した「我が国における『ESDに関するグローバル・アクション・プログラム』実施計画」においては、ESDは、環境教育を包含するものとして整理がなされています。

また、2017年3月に告示された新学習指導要領における各教科等の解説の総説には以下の記述があります。

一人一人が持続可能な社会の担い手として、その多様性を原動力とし、質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を創造していくことが期待される。

●学校における環境教育とESDへの取り組み

環境教育のねらいは、持続可能な社会づくりに貢献する人材の育成です。持続可能な社会は、環境だけでなく、社会的公正や経済など幅広い領域と関係することから「持続可能な開発のための教育」ととらえ、多分野の教育を積極的に結びつけて取り組む必要があります。

発達への配慮
小学校低学年では、体験や感性が重要であり、学年が上がるに従い、課題発見と解決の実践力、行動を通じた思考・判断能力と、重点となるねらいが変化します。
また、環境教育では、課題を発見し、取り組み、結果をふりかえる一連の過程を経て、さまざまな能力が身につくよう設計することが重要です。

学校全体での取り組み
環境教育には、学校全体で取り組むことが不可欠です。各学校の目標、目指す児童・生徒像を踏まえたうえで、全教職員が環境教育にどのように取り組み、実践するかについて共通理解しておく必要があります。また、学年間・教科間での連携を積極的に図ることにより、環境教育の効果はより高められると期待されます。

地域・家庭とのかかわり
特に児童にとっては、地域の身近な問題に目を向けた内容を取り上げ、身近な活動から学習を始めることが有効です。
また、環境保全のための取り組みは、日常生活の中でも意識的に行っていくことが求められています。家庭や地域社会と積極的に連携し、学校で学んだことを家庭や地域社会での生活に生かすことができるよう配慮することが必要です。

●学びをつなげる

環境に関する学習内容は既に学習指導要領に盛り込まれており、学校教育ではこれらの学びをつなげていく実践が求められます。


●例えば、総合的な学習の時間においては、

❶「課題の設定」➡ ❷「情報の収集」➡ ❸「整理・分析」➡ ❹「まとめ・表現」

といった探究の過程を通して資質・能力を育成します。こうした中で、各教科等の「見方・考え方」を総合的(統合的)に働かせ、広範かつ複雑な事象を多様な角度から俯瞰して捉え、実社会や実生活の複雑な文脈の中で物事を考えたり、自分自身の在り方や生き方と関連付けて内省的に考えたりすることが、総合的な学習の時間における探究的な学習の過程の特徴として挙げられます。探究課題としては、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題や、地域の人々の暮らし、伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題、児童の興味・関心に基づく課題などが例示されています。

●特別活動において育成を目指す資質・能力の視点は、「人間関係形成」、「社会参画」、「自己実現」です。特別活動では、各教科等で育成した資質・能力を、集団や自己の課題の解決に向けた実践の中で活用することにより、実生活で活用できるようにします。子供たちが学校行事において地域の行事へ参加したり、地域の課題の解決に向けて取り組んだりすることは、「社会参画」の視点に関わる実践であり、学習意欲、自己肯定感を醸成させたりすることなどにもつながります。

● 「ESD環境教育モデルプログラム」とは?

自然環境の荒廃、地域活力の低下、少子高齢化、貧困・格差の拡大など、私たちの暮らす地域社会は様々な問題を抱えています。
「持続可能な社会」をつくるためには、地域に暮らす多様な主体が、自らの生活と様々な問題とのつながりに気付き、行動を変えていくことが必要とされています。社会の様々な問題を解決するためには、自ら考え、客観的に判断し、他者と協力しながら課題解決に向けて行動する力が必要となります。ESDは、そういった力を身につけるための学びです。

「持続可能な社会」の担い手を育てるのに、ふさわしい題材、方法、活動とはどんなものでしょうか?

環境省では、文部科学省の協力の下、「平成26年度 持続可能な地域づくりのための人材育成事業」の一環として、ESDの視点を取り入れた環境教育プログラムを作成いたしました。さらに、学校の先生や企業・NPOの方が考えて下さったものから、20のESDの視点を取り入れたモデル的な環境教育プログラムを作りました。これが「ESD 環境教育モデルプログラム」です。モデルプログラムには、大きく2種類の資料があります。

●授業展開例主に学校内の活動として一定の時間を確保すると考えた時の授業展開例を示しています。

●実践例既存の授業展開例に基づいて、地域でその授業を実践した結果の報告をまとめてあります。

このモデルプログラムをもとに、自然や文化・歴史的背景など、それぞれの地域が持つ特性を混ぜ合わせ、各地域でオリジナルプログラムが作られ、地域に根差したプログラムが実践され広がっていくことを期待します。

●トップページ「学びの地図」

環境に関わる各教科等の学習内容や活動内容を、ESDの視点で「生命・自然」「社会・文化」「経済・産業」の3つの分野に分類したものです。発達の段階に応じて、関係する学習内容が分かるように単元を配置しました。人間の社会活動や経済活動とのつながりの中で、環境を捉え直すことを目的としています。各学校の活動を書き込むなどして、教科等横断的なカリキュラムづくりなどにも活用してください。環境教育がSDGsの目標にどのように関連するのか等、様々な気付きに合わせて図の外周や中心部に目標を貼るなどして活用してください。
本資料が、教員向け研修等の場で活用され、環境教育に対する新たな気付きや発見につながることを期待します。

●資料の活用にあたってー「学びの地図」の作成にご協力いただいた先生方の声ー

●新学習指導要領には、各教科等で育む3つの資質・能力が示されています。この資質・能力は教科等で共通したものですから、教科等横断的な視点で教育課程の編成を行い易くなったと思います。校長としては、カリキュラム・マネジメントを働かせた教育課程を編成する上で、本資料を活用して教科間の関係性や学年間のつながりを教員に示したり、国連持続可能な開発目標SDGsのゴールを外側に配置したり、学校独自の取り組みを書き込むなどすることで、教員の環境教育への理解を促し、より実践的な教育課程編成につながることを期待しています。

このような教育課程全体を俯瞰するような資料は、持続可能な開発のための教育ESDや主体的・対話的で深い学びの実践に有効であり、思考力・判断力・表現力や言語能力を含めた将来に生かされる資質・能力の育成に欠かせないと思います。また、SDGsを児童生徒に示すことは、学校で取り組んでいる諸活動との関わりに気付き、活動を価値付けて活動意欲が向上したり、大人になってからも持続可能な社会に関わるイメージをもつことができたりすることにつながると期待しています。(小学校校長)

●SDGsを目標として、環境教育に関する要素を授業に組み込んで、実践をしていくとなると、自らの担当教科(社会科)だけでは手が足りないという現実に直面します。

例えば「資源・エネルギー」を考える上で、日本にとって持続可能でより良い発電について考える授業を実践したことがありますが、生徒に提供すべき情報の精査を行うと、日本の気候風土やエネルギー源などといった地理的な情報だけでは十分ではないことに気付きました。発電効率や、環境に与える影響、発電コストなどの問題が出てきます。その辺りの資料も苦労してかき集めつつ授業に臨むと、生徒から「理科でも勉強しましたよ」と教えられました。実際に理科の資料集には詳細な発電方法別の資料も掲載されているし、授業でも触れられています。「事前にこの情報を知っていれば、お互いにより効果的な授業ができたのではないか…」と悔やんだものです。
この「図」を見れば、関係する教科等や内容が一目瞭然です。もちろんこの表が全てではありませんが、見通しをつけて連携できそうな教科の担当教員と的を絞った短時間での情報交換が可能です。ただでさえ多忙で自分の担当教科の授業準備も十分にできない教員もいる現状において、この「図」の活用は他教科と最小労力で最大効果を得ることができる可能性を秘めていると思います。
また、小中連携のベースにもなりうるものと言え、まさに、今日必要とされている教育に大きな効果が期待できるものと言えます。早速活用し、学校中に広めていくつもりです。(中学校社会科教諭)

●環境教育は難しくて自分から遠い存在のものだと思い込んでいましたが、この「図」を見たら、今自分がやっていることがまさに環境教育だということが分かりました。特別活動や家庭科などの横と縦の繋がり、そしてそれが世界的な取り組みである「SDGs」というゴールに繋がっているということが分かり、より多面的・多角的な見方で授業や単元のカリキュラムを考え、授業改善することができると思いました。

例えば、生活科「うごくおもちゃ作り」では、普段捨てている物でも、新しい遊びを作りだす資源になることを意識して自分で材料集めから行う。そして自分で作りだしたものを責任をもって扱う。

また、「町たんけん」では、普段気付かない町のよさ、そこで働く人や施設のよさに気付くだけではなく、その町にずっと住み続けたいという視点をもつことでより町への愛着をもち、地域へ発信したい思いや切実感が膨らむなど。これまでやってきた実践に、プラス新たな視点―「持続させたい大切にしていきたい」というエッセンスが加わるという感じです。

そして、特別活動の学校行事(勤労生産・奉仕的行事)や道徳も環境教育に関連していることも新たな気付きでした。家庭科もすごく密接していて、特に低学年の児童にとっては、身近な生活レベルで環境教育をさりげなく取り入れていくことが第一歩だと。
今回の作業で、私にとって環境教育が身近に感じられるものに変わりました。(小学校教諭)