2050年の世界を創る
〜日本版2050パスウェイカルキュレーターを用いて〜

このプログラムは、「高松第一高等学校」のプログラムを基にしています。

● 目標地球温暖化の現状と対策を知る。
②将来の日本について地球温暖化問題の解決に主体的に取り組む姿勢を養う。
③問題解決には世界全体で協力して取り組むことが必要であることを理解する。
● 概要地球温暖化問題、資源・エネルギー問題について学び、それを踏まえて将来の日本社会のあり方を自分で選択し、温暖化を防止し持続可能な社会を創るためには何が必要かを考える。具体的には2050年における日本の温室効果ガス削減量を見通す計算ツール「日本版2050パスウェイ・カルキュレーター」を用い、将来の日本について35項目の選択肢で答えさせ、その計算結果を見る。これによって問題解決に主体的に取り組み未来を自分たちで選び創っていく姿勢を養う。さらに問題解決には一人の努力だけでなく、様々な問題について社会・国家・世界全体における話し合いや協力が必要であることに気づく。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
中学校1〜3年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などを踏まえて設定すること。
中学校3年社会(公民的分野)社会(公民的分野)2 D 私たちと国際社会の諸課題 
(2)よりよい社会を目指して
持続可能な社会を形成することに向けて,社会的な見方・考え方を働かせ,課題を探究する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題を多面的・多角的に考察,構想し,自分の考えを説明,論述すること。
中学校3年理科(第1分野)(第2分野)第1分野 2 (7)科学技術と人間
ア 日常生活や社会と関連付けながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(イ) 自然環境の保全と科学技術の利用 
㋐ 自然環境の保全と科学技術の利用
自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察することを通して,持続可能な社会をつくることが重要であることを認識すること。

第2分野 2 (7)自然と人間
ア 日常生活や社会と関連付けながら,次のことを理解するとともに,自然環境を調べる観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(イ) 自然環境の保全と科学技術の利用 
㋐ 自然環境の保全と科学技術の利用
自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察することを通して,持続可能な社会をつくることが重要であることを認識すること。
中学校1〜3年技術・家庭(技術分野)(家庭分野)技術分野 2 C エネルギー変換の技術
(3) これからの社会の発展とエネルギー変換の技術の在り方を考える活動などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 生活や社会,環境との関わりを踏まえて,技術の概念を理解すること。 
イ 技術を評価し,適切な選択と管理・運用の在り方や,新たな発想に基づく改良と応用について考えること。

家庭分野 2 C 消費生活・環境
(3) 消費生活・環境についての課題と実践
ア 自分や家族の消費生活の中から問題を見いだして課題を設定し,その解決に向けて環境に配慮した消費生活を考え,計画を立てて実践できること。

● SDGsの要素

エネルギーの有限性や消費の多い社会の在り方に対する批判的な視点を身につけ,解決方法を話し合う。
地球温暖化の影響について理解し,身近な環境におけるさまざまな変化に気づく。
温暖化を防ぐための国際的合意を知り,全ての国々の人が協力して取り組むべき問題であることを学ぶ。

● ESDの要素

地球環境や化石燃料が有限であることに気づく。
地球温暖化問題は、全ての国々の人が協力して取り組むべき問題であることに気づく。
将来世代や他の生き物に対する責任に気づく。

● ESDの能力・態度

エネルギーの有限性に対する理解を通じて、エネルギー多消費型の生活に対する批判的な視点を身につけさせる。
自分たちが生きる将来の日本や地球をどのように創るかを具体的に考える力を身につけさせる。
将来の日本や地球を持続可能なものとするために主体的に取り組む姿勢を創る。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

6時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目1 身近な自然の変化をあげてみよう。
・自分の身近な体験から温暖化を感じたことがないか、グループで話し合わせ、発表させる。◇温暖化を感じる例
①瀬戸内海で見られる熱帯魚
②農作物の品質低下(ブドウ・桃:高温障害)
③早まる桜の開花日(入学式の日は?)
④香川県「おいで米」(高温対策米)
〔※①②③は『さぬきっ子環境スタディ』写真を使用〕
2 なぜこのような変化が起こっているのだろう?

・身近な環境におけるさまざまな変化を知る。
・変化の原因について考えさせる。

◇地域の身近な事例を示すことで興味をもたせる。
◇生徒から「地球温暖化」という言葉を導き、これからの学習の狙いを示す。
3 日本で起きている温暖化の影響にどんなものがある?
・近年の日本における自然の変化や問題を地球温暖化の影響の一端として捉える。
(課題提示)
・身近な人から聞く温暖化の影響
◇日本における温暖化による影響の例
①東京におけるデング熱の流行
②各地の異常気象、極端な気象現象の増加
◇新聞記事など資料を提示して理解を深める。
〔プレゼン資料として提示〕
◇父母や祖父母などから「今と比べ昔はこうだった。」「○年頃は〜であった。」というような形で、身近な生活体験の中から温暖化の影響と考えられることを聞いて答えさせる。
◇温暖化問題を数値的データに留まらず、実感を伴った感覚的なものとして身近に感じさせる。
2時間目1 聞いてきた温暖化の例を発表しよう
〜温暖化の対策としてどんなことに取り組んだ?〜
・身近な人から聞いた温暖化の影響を出し合う。
・小学校以来、学校で学んだり家庭で実践してきた温暖化対策や、自分が今後必要と考える温暖化対策をグループで話し合わせる。
◇聞いてきた話をグループ内で話し合い、その上で各グループから代表に発表させる。
◇誰の、いつ頃の話なのか明確にさせる。
◇必ずしも温暖化が原因といえないことについては断定を避ける。
◇話し合いの結果を黒板に書かせ、グループ毎に発表させる。
◇発表内容全体をまとめる。
(省エネ、省資源、節水、リサイクルなど)
◇将来の地球や身近な自然について、どのようになるのだろうか?という課題意識を共有し、次の展開につなげる。
2 地球温暖化について詳しく学ぼう
IPCC第5次評価報告書から温暖化の現状を読み解く。◇資料に基づいて次のことを理解させる。
①温暖化はすでに始まっていること。
②温暖化の原因物質は温室効果ガス(GHG)。
③温暖化の主な原因は人間によるGHG排出。
④破局を防ぐ限度としての「2度上昇」
⑤時間的猶予は、今後30年足らず。
◇温暖化の世界的な現象を、視覚的・具体的データの形で示す。(プレゼン資料提示)
〔資料:CASA『地球温暖化の現状と将来予測』、環境省『IPCC第5次評価報告書』など〕
3 世界の温暖化対策について知ろう
・IPCC第5次評価報告書から世界の動きを学ぶ。◇資料に基づいて次のことを理解させる。
①温暖化を防ぐには2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を世界で半減させることが必要。
②さらに2100年までにGHG排出量ゼロが必要。
(プレゼン資料提示)〔資料:同上〕
◇上述削減がどうすれば可能と思うか、周りと話し合わせる。
4 自分たちは温暖化にどう取り組めば良いだろう?
(課題提示)
・身近な人から聞く今後の温暖化対策
◇家庭で上述①②が可能と思うか?を聞いて家族でどうすべきか話し合ってくる。
◇温暖化問題と対策は、自分たちの世代の問題で、今後の人生で取り組む必要があることを自覚する。
3時間目1 家族で話し合った対策を発表しよう
・身近な人から聞いた温暖化対策を発表。◇聞いてきた話をグループ内で話し合い、その上で各グループから代表に発表させる。
◇発表を聞いた感想を話し合わせ、発表させる。
2 世界と日本の温暖化対策の現状を知ろう
・温暖化を防ぐために次の目標が国際的合意となっていることを、資料に基づいて理解させる。◇国際的合意目標
①2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を世界で半減する。(世界の長期目標)
②2020年までに先進工業国はGHG排出量を25〜40%削減する。(先進国の中期目標)
③2050年までに先進工業国はGHG排出量を80%以上削減する。(先進国の長期目標)
④ 2050年までに日本はGHG排出量を80%削減する。(日本の長期目標・国際公約)
3 CO2排出量が増えないエネルギーはないのかな?
(課題提示)
自然エネルギーについて調べ、その特徴や利点・欠点について調べてみよう。
◇自然エネルギーの概要を紹介する。
①自然エネルギーには何があり、その利点と欠点は何か。
②自分たちの住んでいる地域で自然エネルギーを使うとしたら何が考えられるか?
③そのためには何が必要か?
◇将来(2050年)において自然エネルギー100%社会が実現可能であるという研究報告(自然エネルギー100%シナリオ)が、日本についても世界についても、複数存在することを紹介し、将来への展望をもたせる。(補足(3)参照)
4時間目 1 調べたものを発表しよう
・各グループ内で話し合い、発表する。◇現在の社会と全く異なる社会への変化が必要とされていることに気づかせる。
①概要を説明し、自分で選んだ未来の日本のあり方で2050年までに温暖化を止めることができるか、に取り組む作業であることを理解させる。
②プリントで各項目を説明し自分の選択を記入させる。
③理解が難しい項目は解説し、選択肢を考えさせる。
2 話し合いを基にその対策がどの位の効果があるか調べよう
・日本版2050パスウェイカルキュレーターを用いて日本の2050年をつくる(1)
(準備作業)
5時間目 自分でつくる2050年の日本はどうなるか?
・日本版2050パスウェイカルキュレーターを用いて日本の2050年をつくる(2)
(各自の取り組み)
◇各自インターネットに接続したパソコンでパスウエイカルキュレーター(ウェブ版)を開かせる。
◇入力方法を説明する。
◇前時に各自で選択した項目を入力させる。
◇入力が終わった生徒には結果(GHG排出量削減○%)をプリントに記入させ、発表させる。
◇「80%削減」に成功しなかった生徒には、どの項目を動かせば削減量がより大きくなるか考えさせる。
◇時間的に余裕がある生徒には、より削減量が大きくなるように再挑戦させる。
6時間目 私たちにどのような行動や意識改革が必要か発表しよう。
・前時の取り組みの結果や感想をグループ内で話し合い、発表する。◇前時の取り組みの結果や感想をグループで話し合う。
◇今後、どのような行動や変革が必要か、今回学んだことをどのように今後の行動に生かしていくか、話し合わせ、発表させる。
◇今回は日本についての取組であるが、地球温暖化をくいとめるには、さらに世界が協力した取組が必要なことに気付かせる。
◇全体を振り返っての感想を書かせる。

● 地域で実践するときの補足情報

(1) 日本版2050パスウェイカルキュレーターについて
元々は英国で、2050年の温室効果ガス排出量を1990年比80%削減するための道筋をどうするか、を議論するために開発された「2050年に向けての道筋計算機」。温室効果ガス削減目標をどのように達成するかを議論するためのツールとして様々な分野で活用されている。これを元に日本で、国立環境研究所と地球環境戦略機関(IGES)が共同開発したものが「日本版2050パスウェイカルキュレーター」。IGESのウェブサイトから利用することができる。(朝日新聞2014. 7.24「温暖化の未来 手軽にナビ」参照)
2050年に向けた今後の日本の方向性、エネルギー転換、エネルギー需給など35項目について選択肢を選び入力すれば、2050年時点で温室効果ガス排出量を何%削減できるかが計算されグラフで表示される。これを用いると、「2050年80%削減」はさまざまな方法(例えば原発再稼動〜新設によっても、原発ゼロ=各種自然エネルギー拡大とエネルギー効率向上によっても)で可能であることが確認できる。

(2) 日本版2050パスウェイカルキュレーター作業プリント例(部分)

(3) 自然エネルギー 100%シナリオについて(以下、一部で自然エネルギー=再生可能エネルギーを“RE”と略記)
2050年までに自然エネルギー 100%社会を創ることができるという研究報告は、さまざまな研究機関から発表されている。以下は日本(1~4)、欧州(56)、世界(7〜9)についての例である。
①「無計画停電から戦略的エネルギーシフトへ」(環境エネルギー政策研究所2011.3.23)
②「脱原発の複数シナリオ」(気候ネットワーク2011.9.8)
③「自然エネルギー革命シナリオ」(グリーンピースジャパン2011.9.11)
④「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案100%自然エネルギー」(WWFジャパン2011.11)
⑤「2050年再考:EUにおける再生可能エネルギーのビジョン」(欧州再生可能エネルギー評議会2010.4)
⑥「2050年までに100% REで電力供給、気候に負担なく安全支払い可能」(ドイツ政府SRU 2010.5)
⑦「エネルギーレポート~ 2050年までにRE100%」(WWFインターナショナル2011.2)
⑧「2030までに世界中でREを100%にできる」(MZJacobson,MADeLucci 2010.3)
⑨「エネルギー [r]eボリューション」(欧州再生可能エネルギー評議会、グリーンピースインターナショナル2007.1)

(4)資料等について
本モデルプログラムは、高校における授業実践を元に作成しました。中学生を対象とした環境教育プログラムとしては、まだまだ不十分な点が多々あろうかと思います。内容についての質問や授業で用いた資料、ワークシートプリントなどについては、までお問い合わせ下さい。