産業と環境の共生を考える
〜大気汚染公害の歴史から、問題解決にむけた人間の行動を学ぶ〜

このプログラムは、「公益財団法人 水島地域環境再生財団」のプログラムを基にしています。

● 目標①倉敷市水島地域をフィールドに、中学生を対象に、水島で発生した大気汚染公害の実態と、それを克服するための取組を現場で学ぶことを通じて、四大公害だけではなく、全国各地にも公害があったことに気づく。
②公害・環境問題についてのレクチャー、公害被害者との交流を通じて暮らしを支える産業による負の側面を理解し、物事を多面的に捉える考え方を学ぶ。
③工場や行政施設の見学による学びを通じて、水島地域と自分たちの住んでいる地域との比較を行い、環境と産業の共生など、自分の暮らすまちや社会を持続可能なものとするためにはどのように考え行動すれば良いかについて自分なりの考えを持ち行動する。
● 概要倉敷市水島地域をフィールドに、水島で発生した大気汚染公害の実態と、それを克服するための取組を現場で学ぶことを通じて、四大公害だけではなく、全国各地に公害があったことに気づく。具体的には、公害・環境問題についてのレクチャー、公害被害者との交流を通じて、暮らしを支える産業による負の側面を理解し、物事を多面的に捉える考え方を学ぶ。工場や行政施設の見学による学びを通じて、水島地域と自分たちの住んでいる地域との比較を行い、環境と産業の共生など、自分の暮らすまちや社会について総合的に考える力を養う。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
中学校1〜3年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などを踏まえて設定すること。
中学校3年社会(公民的分野2 B 私たちと経済
(2)国民の生活と政府の役割
対立と合意,効率と公正,分業と交換,希少性などに着目して,課題を追究したり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識を身に付けること。
(ア) 社会資本の整備,公害の防止など環境の保全,少子高齢社会における社会保障の充実・安定化,消費者の保護について,それらの意義を理解すること。

2 D 私たちと国際社会の諸課題 
(2)よりよい社会を目指して
持続可能な社会を形成することに向けて,社会的な見方・考え方を働かせ,課題を探究する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題を多面的・多角的に考察,構想し,自分の考えを説明,論述すること。
中学校1〜3年道徳2 C 主として集団や社会との関わりに関すること
[郷土の伝統と文化の尊重,郷土を愛する態度] 
郷土の伝統と文化を大切にし,社会に尽くした先人や高齢者に尊敬の念を深め,地域社会の一員としての自覚をもって郷土を愛し,進んで郷土の発展に努めること。

● SDGsの要素

公害・環境問題について理解を深め,自分の暮らす地域の町づくりについて総合的に考える。
環境と産業の共生を図り,持続可能な社会を創出する方法を主体的に考え,行動する。

● ESDの要素

企業の利益や社会の発展の裏には犠牲になっている人々がいて、それらの相互の関わりの中で今までの社会が成り立ってきたことを学ぶ。
公害問題は、高齢者や幼児、貧困層など、社会的な弱者に集中する不公平な問題であることを学び、弱者を犠牲にするのではなく全ての人々の生命や人権が公平に保障されなければならないことに気づく。
裁判で争った後に和解という形で地域を良くするために決着をつけ、その後企業、行政、住民、大学など、様々な主体が連携し、未来ビジョンを描く取組へ発展したことに気づく。

● ESDの能力・態度

地域開発が環境や地域社会に与える負の影響を学ぶことで、物事を進めるときに未来像を予測する必要性について学ぶ。
公害被害者や、企業の関係者、行政担当者など多様な主体からの意見を聞くということを通じて、多様なものの見方を身につける。
公害患者に共感した専門家や医師、弁護士などの協力が、社会を変えていく大きな力となったことを学び、他者を理解し、思いやることの大切さを学ぶ。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

10時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目身近な地域の公害問題について知ろう
・日本の代表的な公害問題について、歴史的背景とその被害について調べてきたものを互いに発表する。
・調べて分かったことや疑問点について出し合う。
◇四大公害問題のうち自分が調べてみたい問題について歴史的背景や被害状況等をまとめてくるように宿題としておく。
◇足りない点を指導者が補う。
2時間目なぜ公害問題が起きたのだろう?

・自分たちの住む町(あるいは身近な地域)における公害問題の歴史的背景や被害の実態、克服の過程などを概略的に学び問題の原因について考える。
※みずしま財団職員がレクチャーを行うことが可能。

◇経済を発展させ、経済的に豊かにし、社会を支えてきた側面と、大気を汚染し、健康に影響を与えたという負の側面の両方を見ることで、多面的に物事を見る力を養う。
〔パワーポイント、ビデオ「公害は終わったのか」〕
3・4時間目大気汚染公害被害の実態と住民運動を知ろう
・大気汚染公害に対する住民運動や裁判について学ぶ。その中で、弁護士・医師・専門家などが果たした役割についても学ぶ。
・大気汚染公害によってどのような身体への影響があったか、グループに分かれて、公害被害者から直接聞く。
・生活に入り込んできた公害について学び、きれいな空気を取り戻し、子や孫に残したいと願った当事者の気持ちについて理解を深める。
・公害被害者から話を聞き、感じたことや疑問に思ったことをたがいに発表しあう。
◇公害被害者の運動を支えた人々の取り組みから他者を思いやることの大切さ、連携することで社会を変える力が生まれることを伝える。
◇身体の苦しみのほかに精神的な苦しみを味わっている。
理不尽な差別を受けた気持ちや、一部の人に負担を強いることは、公平ではないことについて理解できるように支援する。
◇問題解決に向けたそれぞれの努力について想像できるよう支援する。
◇発生してからよりも未然に防止したほうがよいことを理解する。
◇「住んでいるだけで病気になってしまった」理不尽さを理解すること、公平に物事を進めるためには弱い立場の人に対する配慮が必要であることが理解できるよう支援する。
5~7時間目大気汚染公害の現場と企業、行政の取り組みを知ろう(フィールドワーク)
・見学先では、「なぜ公害問題が起きたのか」と「どのようにして公害問題を克服したのか」といった視点で質問・インタビューを行う。
フィールド1:鴨が辻展望台(1時間)
テーマ:研究者、まちのプランナーの視点
・鴨が辻山の展望台から水島地域を眺望し、工場の立地条件と自然条件(風向き)による公害発生の教訓を学ぶ。
フィールド2:工場見学(1時間)
テーマ:企業の経営者の視点
・JFEスチール(株)などの生産の現場を見学することで、生産と環境対策の技術(排ガス、排水処理の企業努力)について学ぶ。
フィールド3:倉敷市環境学習センター・環境監視センター(1時間)
テーマ:環境を監視する人の視点
・倉敷市環境学習センター・環境監視センターで、住民の健康に影響が出ないように、現在も行政職員が環境を監視していることを見学と解説で学ぶ。
◇フィールド1の解説は、みずしま財団職員が行う。生徒を3つのグループに分け、テーマ設定を与える。テーマを持ったうえで、各フィールドを3時間かけて回る。
◇海風が吹いて、工場の煙が住宅地へ降り注ぎ、山に囲まれた地域に滞留した地形がわかる。
◇未来を考えて計画するということの重要性を知る。
◇企業は、鉄や石油などを生産し新産業都市の優等生として高度経済成長を支えた一方で、負の側面として、環境汚染・健康被害である公害をおこしてしまったことを理解できるようサポートする。
◇行政の監視業務に対して「なぜ、その計測をしているのか」を考えるようにする。
〔企業、行政のパンフレット、バス〕
8時間目見学して学んだことを基にフィールド1~3のテーマごとに新聞にまとめよう
・公害被害者へのヒアリングや現地フィールドワークを通じて感じた疑問を基に、自分たちのむ(あるいは近隣の)町の公害問題の歴史や今後の課題をテーマごとの視点で壁新聞という形で取りまとめる。◇見学を通して学んだことを壁新聞という形で取りまとめることにより、他のグループにも分かりやすく説明できるようにする。
◇生徒が十分に把握しきれていないところなどは、みずしま財団職員がフォローする。
〔模造紙、付箋、マジック など〕
9時間目テーマごとの発表を聞こう
発表をもとに二度と公害を起こさないために私たちに何が出来るか討論しよう
・テーマごとにグループ発表を行う。
・互いに他のグループ発表を聞き、それを基に討論する。
◇各グループの発表に対して、質疑応答や別の視点からの意見を述べ合うことで、多面的な考え方を身につける。
◇自分たちが大人になった時の未来の社会を想像して議論する。(自分事として考えさせる)
10時間目討論の結果を生かし、今から自分たちに出来る行動について話し合おう
・自分たちの住む町を持続可能な社会とし、二度とこのような公害問題や公害被害者を出さないようにするために、自分たちが心がけなければいけないことや自分たちが取るべき行動について話し合い、その結果をアクションプランとして発表する。◇自分たちに出来る現実的な行動を考えさせる。
◇明日から実行に移せるものをみんなで力を合わせて取り組むことを確認して終わる。

● その後の展開例等

2015年9月に佐賀県からの中学校の修学旅行の受け入れがあり、工場見学と環境学習の組み合わせで実施する。今後、事前・事後の学習と組み合わせての展開を考えている。

● 地域で実践するときの補足情報

  • プログラム所有団体が提供できるリソースやその条件 (地域や経費的な条件など)
    ▷水島には、倉敷市環境学習センター、企業の工場、海辺のフィールドなど、学びのできる場所が、バスで1時間も かからない場所に集積しており、地域内で様々な学びをすることができる。
    ▷みずしま財団の職員が講師をすることも可能。その際は別途相談。
  • プログラム所有団体が関わらない場合の代替リソース案 (国際交流協会や地域のビーチコーミング団体など)
    ▷企業・行政は「環境学習を通じた人材育成・まちづくりを考える協議会」のメンバーであり、水島におけるESDプ ログラムづくりにともに取り組んでいる関係がある。当財団が直接かかわらない場合も、柱として水島の公害の歴史を盛り込めるようなビデオ、教材の開発について現在検討中。
  • 地域色が強いプログラムの、他の教材での展開可能性 など
    ▷公害被害者の声を直接聞くことができない場合の補足資料としては、「公害は終ったのか 第I〜IV章」ビデオやWEBサイト「記録に見る大気汚染の歴史」(独立行政法人 環境再生保全機構)を活用して補う。