わたしたちの命と生活を支える水
〜世界の水不足を食い止めよう〜

目標世界で水不足が起こっている理由やその現状について調べ、水を得たり、水をきれいにしたりするための工夫について理解する。
②貴重な水をどのように利用すべきかについて考え、水を大切に使ったり、世界の水不足を解決したりするためにどうすべきかを主体的に考え、進んで実行する。
③自分たちの考えを効果的に伝えることを工夫し、他者の考えを自分の考えに反映させることができる。本学習を通して、世界の水不足は、容易に解決できるような問題ではないが、自分たちでもできる小さなことを積み上げていこうと努力したり、世界的な協力が必要なことに気づかせたりしたい。
● 概要地球上で利用できる水の量を考え、世界に水不足で苦しんでいる人たちのいることを知ったことが、学習のきっかけである。
日本での水の利用の仕方や世界の水不足の実態について、地域の施設見学や元JICAの隊員の方から話を聞き、学習を深めていった。
世界の水不足の深刻さに心を痛めた子どもたちは、水不足を食い止めるために何とかしようと話し合った。その話し合いの結果、水を大切にするために取り組み、水不足を起こす原因の1つとなっている地球温暖化防止のためにもさまざまな活動を行った。また、自分たちの考えを様々な形で発信し、いろいろな方々に対して自分たちの活動への協力を求めた。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
小学校4年社会
(2)人々の健康や生活環境を支える事業について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 飲料水,電気,ガスを供給する事業は,安全で安定的に供給できるよう進められていることや,地域の人々の健康な生活の維持と向上に役立っていることを理解すること。
(イ) 廃棄物を処理する事業は,衛生的な処理や資源の有効利用ができるよう進められていることや,生活環境の維持と向上に役立っていることを理解すること。
小学校3〜4年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題,児童の興味・関心に基づく課題などを踏まえて設定すること。

● SDGsの要素

水の再生について調べ,きれいな水を得る方法を知り,水を大切に使おうとする姿勢をもつ。
世界で利用できる水の量は地域によって大きな差があり,その不公平さを解決する方法を考え,話し合う。
水の問題について,世界的な協力が必要なことに気づく。

● ESDの要素

私たちの利用できる水資源は有限であることに気づく。
利用できる水の量には、地域によって大きな差があり、その現状を不公平だと感じる。
限りある水資源を大切に使用するために、自分たちの生活を改善する必要があることを意識する。

● ESDの能力・態度

水に関する現状について課題意識をもち、これまでの自分たちの生活を内省する。
水に関する問題について、水の利用の仕方や気候と関係付けながら考えたり、世界的な視点から捉えたりする。
世界の水不足を解消するための方策について考え、できることから実行する。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

46時間

○主な活動
*児童の発言
指導・支援の方法等〔教材・必要物〕
※吹き出しの中は、学習を深めるためのポイント
総合的な学習の時間3時間〈つかむ〉 世界の水問題を考えよう
「地球上にはどれくらい水があるのだろうか」

○直径1mの地球上にある水の量や利用できる水の量を考える。
*私達が使うことのできる水は本当に少ないのにびっくりした。
○ユニセフの画像や映像を見て、感想を述べ合う。
*世界には、水がなくて困っている人がいてかわいそうだ。
*なぜ、日本は水をたくさん使うことができるのだろうか。

○調べてみたいことをカードに書いて、子どもたちの課題をまとめる。
<子どもたちの主な課題>
◦水不足はなぜ起こるのか。水不足はなくせるのか。
◦水不足の国のくらしについて知りたい。どれくらいの人が水不足で困っているのか。
◦日本や外国で1日に使う水の量を調べたい。
◦水をきれいにするにはどのような方法があるか。飲めるようにすることができるのか。
◦私たちがたくさんの水を飲めるわけを知りたい。


KJ法的な手法を用いて、子どもから出された課題について分類・整理する。

○自分たちの調べてみたい課題を分類・整理する。



◇直径1mの地球のイラストをスクリーンに投影して、利用できる水の少ないことに気付かせる。
◇泥水を飲んだり水を得るために長い列を作ったりしている子どもや、大きなかめをもって水を運ぶ子どもたちの写真や映像を提示する。
◇自分たちの生活と比較するようにし、日本と異なり、世界では水不足で困っている人たちのいることに関心を高める。

本来は、実際に体験したり、専門家の方の話を聞いたりするとよい。そうすると、子ども達の問題意識が高まり、その問題を解決しようという意欲が高まる。
ここではそのような設定ができなかったので、クイズ形式での導入になった。

〈調べる1〉 水について調べよう
社会科4時間












社会科6時間














総合的な学習の時間4時間

「なぜ日本には、水が豊富にあるのだろうか」

○どのように水を手に入れ、どれくらい使っているのか。
*昔の人は、あまり水を使わなかったのに、今ではとてもたくさんの水を使うようになった。
*日本人は、1日におよそ250リットルも使っている。
*降った雨水を水源林にためて、その水が私たちの家に届く。

「汚れた水はきれいにできないのか」

○汚れた水をきれいにするしくみや、水を汚さない工夫はどのようにしているか。
*昔の人は、あまり水を使わなかったのに、今ではとてもたくさんの水を使うようになった。
*私たちのまちに流れている川もよごれている。(学区域内の辰巳運河の水質検査)
*家から出た排水がよごれている。
*水再生センターで、水をきれいにしている。

「世界の水不足はどうなっているのか」

○世界的な水不足の状況や原因、水不足に苦しむ人々の生活の様子などを調べる。
*たくさんの国の人たちが水不足で苦しんでいる。
*水を得るために、1日中働いている子どもたちがいる。

<子ども達の感じたこと、考えたこと>
◦ 調べた本に、日本人が1回トイレで流す水の量とアフリカの人が1日に使う量が同じだと書いてあった。日本は水を無駄に使いすぎだと思う。
◦ 水不足の人たちはかわいそうでした。日本はたくさん水があるのに、外国には、水を手に入れられない人がいる。水不足の人たちのビデオを見て、胸がキュンとなりました。
○社会科の副読本や書籍、インターネット、ビデオを活用できるようにする。

子どもたちに自分の力で資料を入手するように話しておくが、子供たちの調べ活動に役立つ分かりやすい資料を事前にいくつか用意しておく。
〈調べる2〉 施設を見学したり、専門家に話を聞いたりしよう!
社会科5時間






総合的な学習の時間4時間
「水の科学館・水再生センターを見学しよう」

○水の科学館や有明水再生センターなどを活用して調べる。書籍等で分からなかったことを施設の人に質問する。

<子ども達が調べて分かったこと>
◦ 自分たちの体の中の半分以上が水分でできている。
◦ ダムや浄水場を経て、私たちの家に水道水として届いている。
◦ 浄水場で水を消毒し、安全な水がつくられている。
◦ 私たちの家から出る生活排水はとてもきたない。
◦ 水再生センターで魚がすめるくらいきれいな水にしている。
◦ 水をきれいにするために、目に見えない微生物の力を借りている。


「元JICAの方からお話を聞こう」

○元JICA隊員の話を聞き、世界の水不足について調べる。
*雨が降ることを心待ちにしている人たちがいる。

<子ども達が調べて分かったこと>
◦ 不衛生な水を飲み、病気になったり死んでしまったりしている人がいる。
◦ 水不足は、食糧不足につながり、飢えて死んでいく人も多い。
◦ エネルギーをたくさん使うことで、地球温暖化が進み、気候がおかしくなって雨が少なくなっている。地球温暖化を防ぐことが、水不足を解決することにつながる。
○事前に児童の調べようとしていること、質問事項を施設の方に伝えておく。

体験をしながら学ぶことが、子どもの認識を深めたり価値観を変容させたりすることにとても有効である。




○アフリカのニジェールで協力活動をしていた方をゲストティチャーに招き、世界の水不足についてさらに深く調べる。

問題の最先端を目にしてきた人の思いや願いを聞くことが、子どもにとってとても大切な学習になります。事前の打ち合わせを十分に行っておくことは大切です。授業のねらいにそった話を聞くことができるように打ち合わせをしておきましょう。子どものこころを突き動かします。
総合的な学習の時間3~6時間〈話し合う〉 水不足を食い止めるためにできることを考えよう!
○子どもたちは、学習してきたことを振り返りながら、
自分たちができることを考え、話し合う。

<子ども達の主な思いや考えをまとめたもの>
◦ 水不足を食い止めるためには、まず、自分たちが水を大切にしていくべきだと思う。
◦ お家の人にも呼びかけるべき。大勢の人たちに水不足について知ってもらいたい。
◦ 水を大切にすることを大勢の人に協力してもらう。
◦ 募金をして、水不足の国の人に役立ててもらう。
◦ 地球温暖化が水不足の原因にもなっているので、地球が温暖化しないように電気やガスなども大切にしたい。
総合的な学習の時間
11時間・課外活動
〈行動・発信〉 自分たちの考えを実行しよう
○自分たちの思いや考えを様々な形で発信したり、行動したりする。

ESDの学びの中で、最も大切な場面。

<子どもたちの考えた問題解決のプラン>
①学年便りを使って、保護者へ向けて自分たちの考えを訴えたり、水を大切にするよう呼びかけるポスターやカー
ドを掲示したりして協力を呼びかける。
②全校集会や学校祭りで、自分たちの思いや考えを発表する。
③多くの人に自分たちの考えを伝えるようにビデオを作成し、「TOKYOこどもエコクラブまつり」で大勢の人々に見てもらう。
④作文コンクールに自分たちの考えを書いて提出する。
⑤家庭で、電気・ガス・水の使用量やごみの排出量を減らすために取り組む。


○調べてみたいことをカードに書いて、子どもたちの課題をまとめた。

<子どもたちの主な課題>
◦ぼくは、みんなに今の地球の状態を知ってほしい。めんどうでも、未来のためにがんばらなきゃいけないと伝えたいです。
◦電気を1人1人が節約し続ければ、世界中の人が幸せになれると思う。
◦発見した「みどりを大切に」ということは、森林は、水をたくわえたり、地球の温暖化を防いだりするからとっても大切なのだと思いました。
◦水があっても汚れていて水を飲めない国もある。だから、日本だけでも、川をきれいにしていくべきだと思った。
◦外国の人たちは水不足を防ぐために、いろいろな工夫をしていることがわかりました。
◦地下水を使いすぎて、地面が下がっている国もあると聞いたが、でも、水不足の国には井戸をつくってあげた方がいいと思う。
◦厳しい生活をしてなくなっている人がいることを考えると、水を使っていることが当たり前に感じなくなりました。
◦毎日使う水の量を制限したり、1時間だけでも水を使わない日を設けたりしてはどうかと思った。
○アフリカのニジェールで協力活動をしていた方をゲストティーチャーに招き、世界の水不足についてさらに深く調べる。

区の環境対策課の方にも発表を聞いてもらうようにする。

毎日、電気・ガス・水の使用量を調べ、削減するには、家庭の協力が不可欠であり、学校としても子ども達の考えを伝えて協力要請する必要がある。

● 子どもの変容

  • 平気で水を無駄遣いしていた子どもたちが、水道の蛇口をしっかり閉めたり、水を使っている教師に対して、水を節約するように言ったりするようになった。
  • 地球温暖化について学ぶことは当初の計画にはなかったが、子どもたちは、世界の水不足について調べるうちに、地球温暖化が密接にかかわっていることに気づいた。地球温暖化はかなり難しい概念であり、4年生の児童がどこまで理解できるか心配をしたが、人との交流や体験を通して学ぶことによって、難しい概念も4年生なりに理解しただけでなく、自分たちの生活の仕方についても考え、こまめに電気を消すなどができるようになった。
  • 子どもたちは、水不足を解決するために、まず、自分たちが日ごろから努力することが大切であることを理解した。さらに、水の問題は自分たちだけで解決できるものではなく、世界で協力しなければいけない必要性を強く感じ取ったようである。

● 協力

■東京国際交流館
■東京都環境局・キッズISO事務局
■水の科学館 有明水再生センター
■JICA
■ユニセフの写真資料・ビデオ

● 実施

東京都江東区立東雲小学校 2005年実施

                         (文責:石田好広)