自然を活かした かしこい暮らし方を考えよう
〜伝統的民家の知恵・エコの知恵を伝えよう〜

このプログラムは、「株式会社 東畑建築事務所」のプログラムを基にしています。

目標①校舎の温熱環境をグループワークによる実験や調査を通じ、体感と数字によって主体的かつ客観的な視点から学ぶ。
②エネルギーをできるだけ使わずに快適に過ごす工夫が地域に残る伝統的民家の知恵や文化を活かしたものであり、それと現代の技術を組み合わせることで1年を通して賢く快適に暮らせることを学ぶ。
③学習した伝統的民家の知恵や文化と快適に校舎で過ごすための工夫について、来校者や下級生、転入された先生などに自分の言葉や表現方法で伝えることでさらに理解を深めるとともに、環境に優しい暮らし方を地域に広げ、活動の継続を図る(エコツアー)。
④教育の題材とすることで校舎への愛着を育み、大切に長く使い続ける意識を育てる。
● 概要エネルギーをできるだけ使わずに夏涼しく、冬暖かい環境で賢く暮らす方法について校舎を使った実験や調査によって体感や数字を通じて学ぶ。また地域に残る伝統的な民家を訪れ、昔の暮らしの話を聞いたり建物を体感したりし、電気やガスがない時代に快適に暮らそうとした先人の知恵を学ぶとともに、校舎と似ている工夫を考える。そこから昔の日本の建物の多くは夏に重きが置かれ、断熱性能や気密性が低かったため、冬の寒さに弱かったが、現代の環境に配慮した建物は新旧の知恵の融合によって1年を通して快適に過ごせることを学ぶ。これまでの学習を色々な人に伝えるエコツアーを行い、自分の言葉、表現方法を考えることでさらに理解を深める。本プログラムは「学校エコ改修と環境教育事業」における実践を元に整理したものである。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
小学校4,6年理科
4年 2 A 物質・エネルギー
(2)金属,水,空気と温度
金属,水及び空気の性質について,体積や状態の変化,熱の伝わり方に着目して,それらと温度の変化とを関係付けて調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 金属,水及び空気は,温めたり冷やしたりすると,それらの体積が変わるが,その程度には違いがあること。 
(イ) 金属は熱せられた部分から順に温まるが,水や空気は熱せられた部分が移動して全体が温まること。 
(ウ) 水は,温度によって水蒸気や氷に変わること。また,水が氷になると体積が増えること。

4年 2 B 生命・地球
(4)天気の様子  
天気や自然界の水の様子について,気温や水の行方に着目して,それらと天気の様子や水の状態変化とを関係付けて調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 天気によって1日の気温の変化の仕方に違いがあること。 
(イ) 水は,水面や地面などから蒸発し,水蒸気になって空気中に含まれていくこと。また,空気中の水蒸気は,結露して再び水になって現れることがあること。

6年 2 B 生命・地球
(2)植物の養分と水の通り道
植物について,その体のつくり,体内の水などの行方及び葉で養分をつくる働きに着目して,生命を維持する働きを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 植物の葉に日光が当たるとでんぷんができること。 
(イ) 根,茎及び葉には,水の通り道があり,根から吸い上げられた水は主に葉から蒸散により排出されること。 
小学校5〜6年家庭2 B 衣食住の生活
(6)快適な住まい方 
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 住まいの主な働きが分かり,季節の変化に合わせた生活の大切さや住まい方について理解すること。

2 C 消費生活・環境
(2)環境に配慮した生活
ア 自分の生活と身近な環境との関わりや環境に配慮した物の使い方などについて理解すること。
イ 環境に配慮した生活について物の使い方などを考え,工夫すること。

● SDGsの要素

エネルギーを使いすぎない方法を学びながら,自分の生活を見直し,資源を大切にしようとする姿勢をもつ。
環境を守る暮らし方を,伝統的民家の知恵・文化や現代のエコ技術から学び,それを地域に広げる活動を行う。

● ESDの要素

エネルギーをかしこく使う工夫を学ぶことで、限りある資源を大切にする意識を育む。

● ESDの能力・態度

自分のこれまでの暮らし方を見直し、よりエネルギー消費を減らしつつも快適に暮らす方法を考える。
暑さ、寒さのメカニズムを理解し、住まいの構造や扉・窓の使い方などから、多面的、総合 的にエネルギー消費を減らす方法について考える。
エネルギーをかしこく使う暮らし方を学び、それを下の学年や来校者へ自分の言葉で伝える エコツアーを行う。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

12時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1・2時間目〈エネルギーをあまり使わずに気持ちよく暮らす工夫を考えよう〉
涼しく気持ちよく暮らす工夫を考えよう
レクチャー:暑さのメカニズム
グループワーク:
①吹抜空間の上下の気温比較
・気温調べ
・シャボン玉飛ばしによる
や断熱材がある空間と庇や断熱がない空間の比較
・気温、表面温度調べ
・体感チェック
③芝生とアスファルトの比較
・表面温度調べ
・体感チェック
◇エネルギーを使わずに夏を涼しくすごすためのポイント(1)風を活かす、(2)日射を遮る、(3)緑の力を活かす、を体感、数字を通じて学ぶことを目指す。
左の①は吹抜空間でシャボン玉や羽など軽いものを飛ばすことによって、温かい空気が上昇する性質を見て学ぶ。また、吹抜の1階部分と上部の排気窓部分に設置した温度計から、上下温度差を数字で確認する(実施時の気温例:1階部分29.4°C、上部32.4°C)。

②は断熱材や庇のある空間とない空間において気温や放射温度計で表面温度を調べたり(実施時の壁の表面温度例:断熱あり29.5°C、断熱なし35.2°C)、暑さや快適性について5段階評価による体感チェックを行ったりして比較する。

◇③は芝生とアスファルトの地面を触り比べたり、放射温度計で表面温度を比較したりし、植物の力によって涼しさを得られることを学ぶ。(実施時の温度例:芝生32.2°C、アスファルト50.5°C)。
〔温度計、放射温度計、シャボン玉〕
3・4時間目暖かく気持ちよく暮らす工夫を考えよう

レクチャー:断熱のしくみ
グループワーク:
①暖房後の扉開放による室温低下調べ、体感チェック


②断熱材(スタイロフォームなど)とコンクリー
トブロックの体感比べ・表面温度比べ

◇夏季に涼しく暮らすための工夫について考えたことを想起させる。
◇高断熱や開口部の上手な使い方によって、冬もエネルギーをできるだけ使わずに快適に過ごせるようになることを学ぶ。
◇①は暖房した2つの教室のうち、一方は廊下側の扉や窓を開放、もう一方は閉鎖し、30分後の室温や寒さの体感を比較して暖房室の扉をぴたっと閉めることで暖かさが保持されることを学ぶ(実施時の温度例:開放15.0°C、閉鎖17.1°C)。

②はホームセンターなどで手に入るスタイロフォーム(断熱材)とコンクリートブロックを用いて、断熱材が熱を遮断する効果を学ぶ。
〔温度計、放射温度計、断熱材、コンクリートブロック〕
5~8時間目〈伝統的な民家から、エコの工夫を学ぼう〉
地域に残る伝統的民家を訪れ、昔の暮らし方や文化について話を聞き、建物を体感する
地域に現存する伝統的民家を訪れ、昔の暮らし方や文化について話を聞き、建物を体感する◇これまで学んだ校舎の工夫と地域に昔からある伝統的民家の似ている工夫を考え、昔の建物や暮らし方を知る。
特に日本の伝統的な民家の多くは、夏の涼しさに重きを置き、冬の寒さ対策が脆弱であったことを学び、現在は新旧の知恵の融合によって1年を通して快適に過ごせるようになったことを学習する。
9~11時間目発表の準備をしよう
エコツアーに向けて、グループに分かれて発表の準備をする◇これまで学んだ伝統的民家の知恵、現代のエコ技術について、自分が最も伝えたいことを明らかにして、発表が印象に残るものになるように表現方法を工夫する。
◇実験や見学の際の様子を撮った写真や実験データなどを用意して、発表に活かすようにする。
〔写真、実験データなど〕
12時間目伝統的民家とエコの知恵を伝えよう(エコツアー)
来校者や下級生、転入される先生へ伝統的民家の知恵と現代の技術を組み合わせた校舎のエコのしくみを紹介する◇学んだことを色々な人に伝え、環境に優しい暮らし方を広げるとともに、下級生や新しく来られた先生へ伝え、校舎や地域の伝統的民家を活用した環境教育活動の継続を目指す。
〔発表に使うツール〕

● その後の展開例等

  • エコツアーで案内を受けた前年度の4年生が5年生となり、本プログラムに取り組んでいく。
  • エネルギーをできるだけ使わずに気持ちよく暮らす工夫を学校だけでなく、家庭での暮らしにも活かす方法を考え、実践する。
  • エネルギーをできるだけ使わない暮らしを考える上で、「明るさ」についても発展させる。
     ▷「くらしの明るさを考えよう」
     レクチャー:まちの色々な場所の明るさ、様々な明るさ指標
     グループワーク:①校舎内の明るさ調べ、体感チェック
            ②教室での照明点灯ゲーム(日本建築学会作成プログラム)
  • 普段の暮らしの中で明るさ、暗さに敏感になり、本当に必要な明るさを意識することで照明の無駄づかいを減らすことを目指す。
    ①は校内の様々な場所における照度測定や「読書するには?」「友達とおしゃべりするには?」「昼寝するには?」など色々な状況を想定し、「明るすぎる~暗すぎる」の5段階で感覚評価することで、作業内容や状況に応じた適正な明るさを意識させる。
    ②は天井照明を見上げずに、窓側、中央、廊下側のどの列の照明が点灯しているかを当てるゲーム。これによって、晴れた日は窓側の照明を点灯しなくても感じる明るさや照度にほとんど影響がないことを学び、照明の省エネ運用を促がす。

● 地域で実践するときの補足情報

  • 地域に伝統的民家などが残っていない場合でも、遠足などの機会に郷土資料館などを見学することで学習の参考になる。また、見学できる施設がない場合でも、インターネットや書籍で伝統的民家や昔の暮らし方についての情報は多く見受けられるので、それらを活用することができる。
  • 「涼しく気持ちよく暮らす工夫を考えよう」の①の実験においては、吹抜がない学校でも階段の1階と最上階の上部など上昇気流が生まれる空間で対応することができる。