里海を蘇えらせるには、稚魚のゆりかご「アマモ」場の再生から

このプログラムは、「相生湾自然再生学習会議」のプログラムを基にしています。

● 目標①現在の海と昔の海の生物の様子について学習する。
・なぜこのように生物の様子が変わってしまったのだろう?
②近くの海岸で生物採取を行い種類や点数を調査する。
生物多様性(魚介類、海藻類)の自然観察で豊かな海を知る。
・海岸に漂着しているゴミや海岸の様子を知る。
③どうすれば昔のような豊かで美しい海が取り戻せるだろう?
・「アマモ場」の役割を学習し、アマモを育てて移植する。
④活動を外部に発信するとともに活動の成果を継続観察する。
・移植をした後「アマモ場」の様子を知るために地曳網で生物調査をする。
・学習したことを発表し海の生物の変化や、自然環境を守り続けることの大切さを他の学年や地域の人たちに伝えていく。
● 概要ふるさとの海「瀬戸内海」が日本を代表する閉鎖性海域であり、高度経済成長期以降、その水質が悪化し、何処の海域でも見られた「アマモ場」も消滅したのである。同時に干潟も埋め立てられ消失したのである。アマモ場や干潟が無くなると、生物多様性(魚介類、海藻類)の自然環境は大きく変わり、豊かで美しい里海は姿を消したのである。近年、水質浄化の取組みで徐々に水質も良くなっているので、「アマモ場」を復活させ、ふるさとの海を「里海」として再生させる活動を通して生物多様性の豊かな自然環境の大切さを理解するプログラムである。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
小学校5〜6年理科6年 2 B 生命・地球
(3)生物と環境
生物と環境について,動物や植物の生活を観察したり資料を活用したりする中で,生物と環境との関わりに着目して,それらを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 生物は,水及び空気を通して周囲の環境と関わって生きていること。
(イ) 生物の間には,食う食われるという関係があること。

5年 2 B 生命・地球
(1)植物の発芽,成長,結実
植物の育ち方について,発芽,成長及び結実の様子に着目して,それらに関わる条件を制御しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 植物は,種子の中の養分を基にして発芽すること。 
(イ) 植物の発芽には,水,空気及び温度が関係していること。 
(ウ) 植物の成長には,日光や肥料などが関係していること。 
(エ) 花にはおしべやめしべなどがあり,花粉がめしべの先に付くとめしべのもとが実になり,実の中に種子ができること。

5年 2 B 生命・地球
(2)動物の誕生
動物の発生や成長について,魚を育てたり人の発生についての資料を活用したりする中で,卵や胎児の様子に着目して,時間の経過と関係付けて調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。 
(ア) 魚には雌雄があり,生まれた卵は日がたつにつれて中の様子が変化してかえること。 
(イ) 人は,母体内で成長して生まれること。
小学校5〜6年道徳2 D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
[生命の尊さ]
生命が多くの生命のつながりの中にあるかけがえのないものであることを理解し,生命を尊重すること。
[自然愛護]
自然の偉大さを知り,自然環境を大切にすること。
[感動,畏敬の念]
美しいものや気高いものに感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつこと。

● SDGsの要素

昔と今の海の比較や漂着ごみの調査などから,自然環境を守り続ける大切さを理解する。
アマモの移植や生物観察を通じて,生物多様性の大切さや人間の営みと自然環境の調和の重要性を知る。

● ESDの要素

身近な海岸や海を観察し、生物多様性を実感すると共に、自然環境の大切さを学ぶ。
人間の活動が水質や生物にどんな影響を与えているかを知ると共に、人間が海からどんな恵みを受けているかを知る。
人間の活動が海の環境を変えていること、瀬戸内海の生物多様性が脅かされていることを知り、有限な自然環境を、大切に守り育てていかねばならないことを学ぶ。

● ESDの能力・態度

過去(昭和50年代)は汚れた閉鎖水域であった瀬戸内海。現在は工場排水や家庭排水の浄化など様々な取り組みによりきれいな海になってきたが、昔のような生物が多くいた豊かな海ではない。生物多様性の豊かな海をめざす取り組みについて考える。
人間の活動と自然環境の変化について学ぶことで、特に海をテーマに自然環境を良くすることが生物多様性を豊かにし、人間の営みと自然環境との調和の大切さを知ることができる。
人間の活動によって消滅したり悪化した海の現状を知り、自然再生の取り組みを通じて、自然環境保護や保全を行うためには、人間の活動と直結している問題なので私達の生活の見直しが不可欠であることを学ぶ。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

10時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目チリメンジャコの中にモンスターがいるって本当かな?
瀬戸内海で水揚げされたカタクチイワシの中に混じっている小さな生き物たちを探し、海の豊かさを知る。◇多様な生物がいることを知り、その種類を調べる。瀬戸内海で収穫されたカタクチイワシのチリメンの中から選別し、チリメンモンスター標本をつくる。
〔チリメンジャコ、標本シート、チリメン図鑑・辞典〕
2時間目瀬戸内海の海の様子を調べよう

グループごとに現在と昔の海の生物の様子を調べる。水産資源として漁業の実態を調べる。

◇導入の時期に実際の海の様子を見に行かせ、子どもが何を感じどんな思いを抱くかを大切にする。
◇そこから、昔のもっと豊かな海の様子を写真や資料で知らせ、自分なりの問題意識を持たせることで今後の活動をより主体的なものにする。
〔漁業写真や海の様子が分かる資料〕
3・4時間目磯の生物を採取して海の豊かさを調べよう
海岸で生物(魚貝類)や海藻を採取し、種類や点数を調べ調査記録シートで評価をする。同時に漂着ゴミを持ち帰り、種類など分類する。◇本格的な調査活動として海岸(磯)に生息している生物を調査し指標とする。(6月〜8月)
◇陸側から海側に向かって幅10mくらいを詳しく調査する。(生物・海藻を採取する。干潮帯の時間に行う。)
1時間で名前を同定・分類し、調査表に記入。漂着ゴミも回収・分類する。
◇調査活動を通して海草の大切さに気付く子どもがいると素晴らしい。
〔海岸生物図鑑、海藻図鑑、記録シート、バインダーと筆記用具、ポリバケツ、白いバット、ピンセット、磯ヘラ、軍手、長靴、タオル〕
5時間目海草の果たす役割について学ぼう
・アマモの学習と種子蒔きキットを使って種子蒔き。
・教室へ持ち帰り育苗観察。
◇稚魚のゆりかごと言われる理由を知る。
◇アマモ種子蒔きキット使って種子蒔きをする。
◇蒔く時期は10月末〜11月初旬に計画する。
〔種子、海砂、海水はまとめて準備し、一人一個密閉出来る500ml容器、生分解性ネット〕
6・7時間目アマモの移植ってどうやってするの。本当に稚魚のゆりかごになるの?
苗に成長したアマモを移植する。地曳網を使って生物採集と生物調査でアマモ場の役割を知る。◇ダイバーによる移植
水温が低い時に移植するのでダイバーに依頼する。
◇移植時期:2月末〜3月上旬ごろに計画する。
◇アマモ場に地曳網を入れ生物採取し、生物調査をする。
◇アマモを管理しているNPO法人や漁業関係者、ダイバー、専門講師と協議して行う。
8・9時間目今までの活動を通して学んだり考えたりしたことをまとめよう
発表会に向けて活動をまとめ、思いを発信する準備をする。◇活動の報告だけで終わらないように、活動を通して自分たちが感じたことや考えたことをしっかりと伝えるように指導する。
〔模造紙・PPT・写真〕
<8時間~9時間目に今までの活動をまとめる>
◇種子をまいてから苗に育つまでは時間がかかり、その間はこの学習は中断するような形になりますが、教室で成長を継続観察させ豊かな海を取り戻すという思いを継続させる。
10時間目海の変化や自然環境について学習したことを発表しよう
・自然観察やアマモを通じて知った自然環境の大切さを、多くの友達や家族、一般市民に伝える。
・今後も継続した取り組みが必要であることを認識する。
◇学校での発表(学習発表会などで)
◇教育委員会を通じて発表の場を設定していただき多くの方に取り組みの大切さを伝える。
◇自分たちが考え感じたことの「思い」を伝える場とし、出来れば今後の活動をみんなに呼びかけ、継続した行動につながるように指導する。

● その後の展開例等

  • 海岸(磯)の生物調査は毎年定期的に行い、自然の変化を調査していく。
  • アマモの種子蒔きから育苗、移植は継続して取り組んでいく。
    同時に地曳網を利用して生物調査を行う。
  • 牡蠣の養殖場をフィールドにした学習の場を設定し、牡蠣に付着している生物を調査し海の豊かさを確認していく。

● 地域で実践するときの補足情報

・プログラム所有団体が提供できるリソースやその条件
▷ 相生湾自然再生学習会議の職員が講師をすることも可能。その際は別途相談。
1.「アマモの学習会と種子蒔き」

「実費」
・魚介類の専門講師
・アマモ種子蒔きキット(1セット)
・移植会場への移動費用とダイバーへの費用
「提供できるリソース」
・種子蒔き時の説明と体験学習の補助
・専門講師の派遣依頼
・移植場所の水深が胴長靴を使用して移植できれば自分たちで移植する
2.海岸(磯)の生物調査
「実費」
・学習会を開催する場合は専門の講師
・海岸までの交通費
「提供できるリソース」
・海岸生物調査マニュアルの提供
・生物調査や体験学習の手順と補助
3.チリメンモンスターの標本づくり
「実費」
・漁業者よりチリメンを購入する費用
・専門の講師
・模造紙、透明トレイ
「提供できるリソース」
・地元漁業者よりチリメンを手配することができる
・チリメンモンスターの標本作りの手順と補助


プログラム所有団体が関わらない場合の代替リソース案
▷ 国際交流協会や地域のビーチコーミング団体など