ホタルを通して里山環境を考える
〜中学生による生物多様性を考えた環境再生プログラム〜

● 目標①生物の生息する環境やホタルの自生のしくみを理解し、自然環境の大切さを学ぶ。
②ホタルだけでなく、地域に生息する生物の観察を通して、観察力や生き物に対する考え方、生物の環境と暮らしの関わりやつながりに気づき生命を尊重する態度を身につける。
③21世紀を生きていく中での生物多様性と人間との関わりについて考察し、環境への影響を考え、行動できる生徒を育てる。
● 概要ホタルは小学校レベルでも飼育可能な生き物として、理科の教材とされている。しかし自生地は減少し、東京都心部においては、ゲンジボタル、ヘイケボタル共に自生の確認が伝えられるのはただ1か所である。昭和20年代には、本校の所在地である品川区でも観察ができたホタルが、なぜいなくなってしまったのか?社会の変化と環境の変化による生物および生態系の変化について学習し、生物の多様性と有限性、生態系における連携性を考える。またホタルの生育環境再生・復元に向けてのプロセスを通して、地域と学校の連携、大学等との連携を行うことで、自然環境の大切さと自分たちが出来ることを考え、行動へつなげる。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
中学校1〜3年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などを踏まえて設定すること。
中学校1年理科(第2分野)2 (1)いろいろな生物とその共通点
ア いろいろな生物の共通点と相違点に着目しながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 生物の観察と分類の仕方 
㋐ 生物の観察
校庭や学校周辺の生物の観察を行い,いろいろな生物が様々な場所で生活していることを見いだして理解するとともに,観察器具の操作,観察記録の仕方などの技能を身に付けること。
中学校2年理科(第2分野)2 (3)生物の体のつくりと働き
生物の体のつくりと働きについての観察,実験などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 生物の体のつくりと働きとの関係に着目しながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。 
(ア) 生物と細胞
㋐ 生物と細胞生物の組織などの観察を行い,生物の体が細胞からできていること及び植物と動物の細胞のつくりの特徴を見いだして理解するとともに,観察器具の操作,観察記録の仕方などの技能を身に付けること。
(イ) 植物の体のつくりと働き
㋐ 葉・茎・根のつくりと働き
植物の葉,茎,根のつくりについての観察を行い,それらのつくりと,光合成,呼吸,蒸散の働きに関する実験の結果とを関連付けて理解すること。 
(ウ) 動物の体のつくりと働き
㋐ 生命を維持する働き  
消化や呼吸についての観察,実験などを行い,動物の体が必要な物質を取り入れ運搬している仕組みを観察,実験の結果などと関連付けて理解すること。また,不要となった物質を排出する仕組みがあることについて理解すること。
㋑ 刺激と反応  
動物が外界の刺激に適切に反応している様子の観察を行い,その仕組みを感覚器官,神経系及び運動器官のつくりと関連付けて理解すること。
中学校3年理科(第2分野)2 (7)自然と人間
ア 日常生活や社会と関連付けながら,次のことを理解するとともに,自然環境を調べる観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(イ) 自然環境の保全と科学技術の利用 
㋐ 自然環境の保全と科学技術の利用
自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察することを通して,持続可能な社会をつくることが重要であることを認識すること。

● SDGsの要素

生物の観察を通して,生物多様性と環境,人間との関わりについて考察し,生命を尊重する姿勢を身につける。
ホタルの生育環境の再生・復元に向けたプロセスを通して,地域や大学等との連携し,協力する大切さを学ぶ。

● ESDの要素

自然観察や飼育・調査を通して自然界には多様な生物が存在し、それらがつながり合って自然界が成り立っていることを学びます。
以前は生息・観察できた生物(動植物)の変遷を学ぶことで、生命の有限性を学び、生命を尊重する態度を培います。
ホタルの学習を通して自然とのつながりに関心をもち、生命を尊重し生物の多様性を維持するために互いに連携し協力する大切さを学びます。

● ESDの能力・態度

生物が生息するためにはどのような環境が必要か、人の生活・科学技術と自然環境の関わり等から、過去・現在・未来と総合的に考える力を育成する。
さまざまな生物が、生き残っていくために必要なこと、私たちができることを考え、客観的な情報や公平な判断に基づいて本質を見抜く力を育成する。
生態系の中のどれかが欠けても生存に関わることを学び、自然と自分とのつながりに関心をもち、生命を尊重する態度を育てる。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

12時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目①近所でホタルを見たことがあるかな?
②ホタルを再び呼び戻すにはどうしたら良いだろう?
①昔はホタルが自生していたが、今は見られなくなったという歴史を学ぶ。
②ホタルを再び蘇えらせるためにはどんな環境が必要か考える。
①ホタルと人の関わり、自然環境の変遷について学ぶ。
理解を深めるために、実物の生物や模型などを見せながら説明する。〔昔の写真・資料〕
②現在と昔の環境を比較し、どのような環境がホタルにとって生息しやすいかを考える。(「里山」という言葉を学ぶ)
・自生しているところと、そうでないところの比較をする。
〔環境を比較できるスライド〕
2時間目①ホタルの一生ってどうなっているの?
②校内でホタルを育てることはできる?

①ホタルの一生を学ぶ。
②校内で飼育する際の、環境条件・環境設定を学習する。

①ホタルの一生を食べものや生活環境などを通して学ぶ。
〔成長段階を示す写真・エサとしている生物〕
②環境条件の温度や水質などは、数値で表し、どのような環境が整えば生育できるかを考えさせる。
〔飼育施設〕〔写真・スライドなど〕
3時間目里山ってどんな所?
・里山と呼ばれるホタルが生息する環境があることを学ぶ。◇里山環境(ホタルが自生するような環境)についてインターネットなどでの調べ学習を通して、かつてホタルが生息していた環境に関心をもつ。
※ 里山 =「ホタルが自生」とは限らないことを押さえる。
4時間目①実際にホタルが生息している里山環境を体験してみよう。
①ホタルの生息している場所で観察実習を行い、どのような環境に住んでいるか調査する。①ホタルの生息している里山環境の残る地域に行き、グループごとに生育環境を調査する。(実習)
〔スケッチ用品、記録用紙、ルーペ、植物・動物図鑑〕
5時間目②ホタル以外にどのような生物がいるだろう?
②ホタル以外の生物(動植物)にも目を向ける。②ホタルだけでなく、他の昆虫や水生生物、鳥など多岐にわたる生物にも目を向け、生物の多様性について体感する。
※無農薬の田圃内には水草や浮草が多くたくさんの水生生物が生息していることを知る。(生物多様性)
6時間目学校周辺にはどんな生物がいるだろう?
・学校周辺の昆虫・鳥などの動物や植物を調査する。◇ホタルがいなくなった学校周辺の環境を里山環境と比較しながら調べる。(実習)
〔スケッチ用品、記録用紙、ルーペ、植物・動物図鑑〕
7時間目①里山環境の調査結果と比較しよう。
②元は里山のような所だったのになぜそうなったのだろう?
①里山との環境の違いで気づいたことをグループごとに発表する。
②ホタルを含めて多様な生物がいなくなった原因を考える。
①前時に調べた内容をグループでまとめ、それをクラス全体で共有する。
※生物の種類や数に注目し、そこから環境の違いに気づかせ、更にそうなった理由にまで目を向ける。
②グループで原因を話し合い、全体で共有し討論する。
※多様な生物がなぜ失われてしまったのか。そこに住んでいた生物はどうなったのか考える。
8時間目どのようにしたらホタルが住める環境にできるかな?
・前時の話し合いを元に、環境を元に戻す方法を話し合う。◇復活させるにはどのようなことが必要かを話し合う。
◇普段何気なく生活している中にも多くの生物と関わり、その中で自分たちが生活していることに気付く。
※1人ひとりの行動で環境が変えられるかもしれない!ということに気付くようにする。
9・10時間目 ①もう一度ホタルの住んでいる環境を見に行こう。
②夜にホタルが飛んでいる姿を観察しよう。
③点滅する光の違いは何だろう?
④ホタルの種類やエサについて知ろう。
①ホタルがみられる田圃の手入れを行う。
②飛翔しているときの暗さやホタルの光の点滅を見る。
③点滅する光の違いや場所に注目させる。
④同じホタルにも種類があることや遺伝子の交雑についての注意事項を学ぶ。(生物多様性を損なう危険性)
①ホタルが生育する環境にある田圃に足を踏み入れ、手入れの作業を通してその環境を実感する。(実習)
※前時で話し合って自分たちが考えた内容と比較する。
〔無農薬栽培を行っている田圃、長靴、ジャージ、帽子等〕
②昼間に手入れした場所とホタルの飛翔状況の関連やホタルの点滅と飛翔するために必要な暗さを体験する。
※明るさの違いから都会でいなくなった一因を考える。
③ホタルの飛翔から、よく飛び強い点滅(光)はオス、飛ばずに光っているのはメスと判別し、光っているのは雌雄の情報伝達手段だということを学ぶ。
④ゲンジボタルとヘイケボタルの違いについて学ぶ。また、同じゲンジボタルでも関東と関西では異なり、この地域固有性を大切にしなければならないことも学ぶ。
※ 地域にいるホタルどうしの交雑は問題ないが、他からホタルを持ち込むと、地域にはいない種類の遺伝子が混じるので絶対にあってはならない。
11時間目 ①ホタルが生育できるような地域にするにはどうしたら良いだろう?  
①今までの学習を基に、地域に自然を取り戻すためにしなければならないことを考える。①グループで人も生物も生活しやすい環境をつくっていくためには、何をしたら良いのかを考える。
・各グループの発表を聞き、自分なりの考えをもつ。
12時間目②自分たちでできるアクションプランをつくろう。
②前時の話し合いを基に、自分たちでできるアクションプランを考える。②グループで、ホタルや多様な生物が生活するような環境を整備するために自分たちが協力してできることを考え、アクションプランとしてまとめる。
〔模造紙、マーカー、実習地での写真やスケッチ等〕

※なお、プログラムのモデル化に当たっては、実習の時間数を少なくするなどの工夫を行った。

● その後の展開例等

  • 事後学習後、多くの方に見て頂くため、文化祭等で展示発表を実施することができる。模造紙にまとめたり、ビオトープの小さいものを理科室内に展示することができる。
  • さらに発展的な内容として、理科研究発表会等にまとめたものを発表している。(その際は、学年ごとではなくクラブとして活動)

● 地域で実践するときの補足情報

  • ホタルでなくても地域ごとに存在する生物を調べ、昔と同じ環境にするために必要な条件や環境を考え、整備するプラン でも実施可能。特に絶滅危惧種であるニホンメダカなどを使用することが可能である。
  • 大井町自然再生観察園の利用が可能。(毎週木曜日の13時〜16時30分は、一般開放している。また、学校の授業では、開放日以外でも相談をして頂ければ可能。)
  • ホタルを観察できる時期にもよるが、ホタルの自生している里山で二度実習することが困難な場合、4,5時間目に続けて 9,10時間目を実施することで行く回数を減らせる。