赤とんぼを通して地域の良さを見つけよう

このプログラムは、 「勝山市立荒土小学校」のプログラムを基にしています。

● 目標①自分たちの生活環境を、客観的、科学的にとらえ、他の地域にない魅力や問題点を発見する。
②生物と生物、生物と人間、環境と人間など、さまざまなつながりに気づく。
③地域の自然環境について誇りに思い、それを保全するための具体策を考える。
④環境保全を通して得られた地域の持続的発展のための建設的な提案を多くの人に発信し、地域との協働による環境改善を実感する。
● 概要赤とんぼは、日本中どこででも見ることができ、童謡にも出てくる身近な昆虫であった。そのため、人々の関心を集めることも少なく、その生態も意外なほど調べられてこなかった。しかし、近年、赤とんぼの生息数が全国的に減少し、赤とんぼが飛び交う里山の原風景を見ることができなくなった地域が増えてしまった。このプログラムでは、赤とんぼが生まれ育つ水環境(水田地域)に注目して、1)赤とんぼの生態と稲作との関わりを学び、2)調査活動を通して地域の魅力や問題点を発見し、3)地域の持続的発展のための提案作りや環境保全活動といった社会参画を行う。その過程を通して、地域の自然環境に誇りを持ち、自分たちにそれを守る力があることを認識することをねらいとしている。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
小学校3年理科2 B 生命・地球
(1)身の回りの生物
身の回りの生物について,探したり育てたりする中で,それらの様子や周辺の環境,成長の過程や体のつくりに着目して,それらを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 生物は,色,形,大きさなど,姿に違いがあること。また,周辺の環境と関わって生きていること。 
(イ) 昆虫の育ち方には一定の順序があること。また,成虫の体は頭,胸及び腹からできていること。 
(ウ) 植物の育ち方には一定の順序があること。また,その体は根,茎及び葉からできていること。
小学校3〜4年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題,児童の興味・関心に基づく課題などを踏まえて設定すること。

● SDGsの要素

多様な生き物のいる里地と食の安全を守るため,赤とんぼが生息する環境を米作りと関連づけて考える。
地域の環境のよさを将来に残すための行動を考え,提言する活動を行う。

● ESDの要素

人の手によって作られた水田という環境の中で、様々な生き物が生きていることに気づく態度を培う。
人と生き物が自然の中でともに暮らしていることに気づく態度を培う。
多種多様な生き物が生きる里地の環境と食の安全を守るため、自分たちにできることを考え実行しようとする態度を培う。

● ESDの能力・態度

赤とんぼと農業の関わりを考えることを通して、地域の環境の良さを将来に残そうとする行動を考えることができる。
赤とんぼが成長できる環境を米作りと関連づけて捉え、赤とんぼを増やすための手立てを考えることができる。食の安全についても考えることができる。
相手や目的に応じ、調査結果からわかったことを筋道立てて書く能力や、主張したい内容の中心に気をつけてわかりやすく話すことができる。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

12時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目赤とんぼを知ろう  
・赤とんぼに関心を持つ。
・赤とんぼの種類とその見分け方を知る。
・赤とんぼの一生を知る。
◇赤とんぼの童謡から、赤とんぼが昔から人々の近くにいる存在であったことを押さえ、児童の興味関心を高める。
〔童謡のCD〕
◇赤とんぼテキストを用いて、説明する。
〔赤とんぼテキスト〕
2時間目地域で見られるとんぼを知る。

・赤とんぼ以外のとんぼについて知り、その特徴を理解する。

◇地域で見られるトンボの写真を提示し、とんぼ全般への興味関心を引き出す。
〔とんぼの写真〕
◇調べ学習を通して、とんぼの種類の多さについて押さえる。
〔昆虫図鑑・インターネット〕
3時間目赤とんぼ調べよう
・赤とんぼを調べる目的を知る。
・羽化殻回収とマーキングのやり方を理解する。
◇全国的に赤とんぼの数が減少していることを押さえ、その原因が米作りと関係していることを認識させる。
◇調査に使う道具を見せ、器具の使い方を示しながら調査の実施方法を説明する。
◇羽化した赤とんぼを捕獲する時の注意点を押さえる。
〔赤とんぼテキスト・調査器具〕
◇調査や観察を行う水田を確保する。
(学校田以外は、必ず所有者の許可を得る)
4時間目フィールド調査をしよう
・調査対象の水田から羽化殻を集める。
・羽化後の赤とんぼを捕獲し、羽にマーキングを行う。
◇羽化数調査は、赤とんぼが羽化する時期に合わせて実施する。
◇羽化殻回収をするグループとマーキングするグループを編成しておく。〔マジック・捕虫網・虫かご〕
◇マーキングを行う際は、赤とんぼの種類を同定し、水田から発生する赤とんぼの数を種毎に累積する。
5・6時間目赤とんぼと米作り
・複数地域で行った赤とんぼ調査結果を比較し、地域による違いを探る。◇複数地域の調査結果を比較するポイントは次の通り。
ア)発生する期間と赤とんぼの種類
イ)水田による発生数の違い
◇結果の違いが起こる要因は何かを考えさせる。
ウ)水田の水温
エ)農薬の種類や中干しの実施時期 など
〔発生数を日ごとに記録したデータ〕
7時間目夏山で赤とんぼを探そう
・夏、山(1000m以上)で羽にマーキングがある赤とんぼを探す。
・秋の移動に備え、マーキングを行う。
◇水田から羽化した赤とんぼは、夏は高所で過ごすことを説明する。
◇秋の移動を確認するため、山で捕獲した赤とんぼにもマーキングを行う。〔マジック・捕虫網〕
8・9時間目秋、赤とんぼの数を数えよう
・電線などに止まる赤とんぼの数を調べる。
・マーキングありの赤とんぼを探す。
◇観測する電線(調査対象100m)等を決め、羽を休める赤とんぼの数を記録させる。
◇赤とんぼを捕獲して種の同定を行い、種毎の特徴を見つけさせる。
◇複数地域と連携し、赤とんぼの移動ルートを考えさせる。
〔マジック・捕虫網・虫かご〕
10・11時間目地域の赤とんぼを増やそう
・夏から秋に調査した結果を分析する。
・地域の大人に関心を持たせるため、提言する内容を考える。
◇赤とんぼの発生数記録データを米作りカレンダーと対応させることで、中干しが赤とんぼの発生に及ぼす影響を考えさせる。
◇米作りで中干しをする理由を示し、赤とんぼの発生に影響を与えにくい中干しについて考えさせる。
◇地域の赤とんぼを増やすため、自分たちでできることと、大人の協力が必要なことを考えさせる。
◇今後の活動への連続性を意識させる。
〔発生数を記録したデータ・米作りカレンダー〕
12時間目 地域で発表しよう
・調査活動で見えてきた地域の環境を地域に発信する。
・地域の自然環境と人の生活との関わりを提言する。
◇調査活動の目的をはっきり表し、地域の良さを大人に理解してもらうことを意識させる。
◇調査結果をグラフ化し、視覚に訴えた分かりやすい発表を意識させる。
〔プレゼンテーションソフト〕

※なお、プログラムのモデル化に当たっては、調査対象の場所を水田にすることでとんぼと地域の米作りとの関係を考えられるように工夫した。

● その後の展開例等

本プログラムは、赤とんぼの卵が孵化して成長し、成虫が産卵するまでを調査対象にしている。よって、成虫が産卵する秋から翌年の秋までが実施期間である。そのため、数年という長い期間で調査することによって、より正確な赤とんぼ発生数を把握し、地域の自然環境と農業の関わりを地域に訴えることができる。そこで、次のような展開を考えた。

  • 赤とんぼの産卵方法を調べる。
  • 卵を採取し卵の観察を行う。また、採取した卵を冷蔵庫で翌春まで保管する。
  • 翌春、地域の水田が田植え準備をした頃に、保管していた卵の孵化を試みる。
  • 孵化したヤゴの飼育と観察を行う。(飼育を通して、ヤゴの生態を調べる)

● 地域で実践するときの補足情報

  • 赤とんぼ調査に関わるテキスト(福井県勝山市環境保全推進コーディネーターが作成)を用いて、学習・調査活動に取り組む。テキストは、勝山自然環境ホームページ『K.E.E.P.』のwebサイトよりダウンロードして使用する。(サイト内のK.E.E.P.のフィールド、赤とんぼ共生プロジェクトのページにアップ予定)
  • 赤とんぼの生息範囲は広いため、地域を複数のブロックに分けて調査活動を行う。羽化が始まる前(6月初旬頃)に、事前に幼虫の生息を確認しておくことが望ましい。
  • 水田がなければ赤とんぼ調査は不可能であるが、調査対象生物を赤とんぼ以外にすることで、他の水生生物の調査を行うことができる。