自然の恵み(生態系サービス)を活用する体験学習(いぐねの学校)

このプログラムは「国立大学法人宮城教育大学 小金澤研究室(仙台いぐね研究会)」のプログラムを基にしています。

● 目標①自然の恵みや昔の暮らしを学びながら、自然環境と人間のくらしとのつながりを体験し、観察力と考察力を育む。
②体験学習で発見したものを、図鑑などで調べることによって、基本的な知識を身に付け、その上で自然に対する観察力を育む。
③田んぼでお米を作ることから、自然環境と米づくりのつながりを理解し、自然環境と人間のくらしとのつながりを学ぶ。
● 概要いぐねの学校は、地域の資源(屋敷林(いぐね))や里山、古民家、農林水産物の生産活動、農産物直売所などを使って自然環境と人間のくらしのつながりを学ぶ体験学習である。
事例プログラムIでは、古くからの農家を舞台に、田んぼの生き物調査、田植えや稲刈り、足ふみ脱穀機による脱穀作業、餅つき、かまどでの炊飯、石臼での黄な粉作りなど、自然の恵みや昔の暮らしを験し、古くからの人間の知恵が、現在につながっていることを理解する。
事例プログラムIIでは、直売所で買い物体験や販売体験、生産者からのヒアリングを行い、農産物を作って売る側の立場から、農林水産物の生産〜流通〜消費〜廃棄のプロセスを学び、持続可能なくらしを考え、発表する。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
小学校3〜4年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題,児童の興味・関心に基づく課題などを踏まえて設定すること。
小学校3年社会
(2)地域に見られる生産や販売の仕事について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 生産の仕事は,地域の人々の生活と密接な関わりをもって行われていることを理解すること。
(イ) 販売の仕事は,消費者の多様な願いを踏まえ売り上げを高めるよう,工夫して行われていることを理解すること。
小学校3年理科2  B 生命・地球
(1)身の回りの生物
身の回りの生物について,探したり育てたりする中で,それらの様子や周辺の環境,成長の過程や体のつくりに着目して,それらを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 生物は,色,形,大きさなど,姿に違いがあること。また,周辺の環境と関わって生きていること。

● SDGsの要素

体験活動とともに,農産物を作って売る側から農林水産物の生産・流通・消費・廃棄のプロセスを学ぶ。
多様な生態系の恵みを理解し,自然環境と人間の暮らしが密接に関連していることを理解する。
グループ活動を通してコミュニケーションを図ることと,役割分担しながら他者と協力することの大切さを理解する。

● ESDの要素

自然の多様性に気づき、また、人間は自然と多様なかかわりを持ちながら生活していることを理解する。
自然の恵みを得たり、文化的活動を体験できたりする多様な生態系の恵みを理解し、自然環境と人間のくらしの関係を学ぶ。
地域の方々と連携した学びの場で、児童が教えてもらう活動だけではなく、友だちや地域の人たちと、ともに体験しながらコミュニケーションをとりあって学ぶことができる。

● ESDの能力・態度

グループで活動を行うことで、グループ内での友人とのコミュニケーションを図ることの大切さや各自が役割分担しなければうまくいかないことに気付く。
友だちと協力して観察や販売体験をしたり、直売所で地元の方と協力して商品を売ったりする活動をすることで、他者と協力する大切さを理解する。

いぐね(屋敷林)やその周辺を観察することで、自然環境と人間のくらしは密接に関連していることを理解する。また、直売所を手伝うことで人間同士もかかわりを持って生活していることを理解する。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

11時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1・2時間目I いぐねの学校プログラム(1屋敷林と里山の生産)
○屋敷林(いぐね)の歴史や生態系を知る。
○屋敷林やその周りの水田を観察して樹木・作物・生き物の様子などの環境を観察する。
観察の視点
・屋敷林の樹種や屋敷林がどの方向に向いて植えられているか
・屋敷林の樹木の種類
・水田に生える雑草の種類
・稲の生育状況
・畑の作物
○屋敷林やその周りの環境は人間生活とどのようなかかわりがあるのかを話し合う。
◇屋敷林ではなく、里山や公園を開催場所にする際は、その地域の自然の観察をする。
◇屋敷林の防風効果を測定させてもよい。
◇屋敷林の樹木の用途(建材用、食用、燃料用など)を知らせる。
◇屋敷林とその周辺をしっかり観察させるためにスタンプラリーを行ってもよい。
〔図鑑〕
3・4時間目I いぐねの学校プログラム(2昔からの食べ物)

○昔ながらの食べ物やその作り方を知る。
○昔の道具を使って食事の用意をする。(道具が無ければ、火をおこして飯盒炊飯でも可能)
・餅をつく。
・枝豆の皮をむきすり鉢でずんだもちをつくる。
・石を使って黄な粉を作る。
・蒸し竈でご飯を炊く。

◇地元のお年寄りにお願いして、説明していただく。
◇地元の婦人会・老人会など、詳しい人と協力しながら授業を進める。
◇時間が許せば多くの体験に取り組めるように配慮する。
時間がなければ、地域性のあるものを選んだり、児童に興味のある食物を選択させたりして体験させてもよい。
5・6時間目II 農産物直売所体験プログラム 1開校式(リサイクル野菜の説明) 2買い物体験
○直売所の説明を聞く
直売所の構成(どんな生産者がいるのか)やリサイクル野菜の取り組みなどの直売所で環境へ配慮していることを知る。
○買い物体験
・グループごとに直売所の生産者の販売ブースをまわって、どんな物を売っているのか観察する。
・わからない農産物の名前はお店の人に聞く。できれば食べ方も聞いておく。
・珍しい物は、写真に取っておく。
○生産者との話し合い
生産者さんに、質問する。
質問項目の例
・生産の工夫
・環境に優しい栽培方法の工夫 など
◇(農産物直売所が無ければ生産者訪問で代替可能、リサイクル野菜(※1)が無ければ生ゴミの堆肥づくりでも可能)
◇生産者に聞きたい質問項目を考えさせておく。
〔クリップボード・ワークシート・デジタルカメラ〕
【協力】【参加】
◇生産者さんには、空いている時間を使って児童の質問に答えてもらうよう事前にお願いしておく。
〔クリップボード・ワークシート〕
【伝達】【協力】【関連】
7・8時間目II 農産物直売所体験プログラム 3販売体験
○生産者と一緒に販売の体験を行う。
・お客さんの呼び込みや商品の受け渡しや代金の受け渡し、お釣りの計算などをみんなで確認しながら行う。
・体験で気が付いたことを話し合う。
◇児童たちに何をどこまでやらせるのか、事前に生産者と打ち合わせをしておく。
◇販売体験を通じて気がついたことをグループで話し合って、ワークシートに記入させる。
〔クリップボード・ワークシート〕
9~11時間目II 農産物直売所体験プログラム4自分達の発表
○直売所に来ているお客さんたちに伝えたいことを話し合う。
○発表の準備をする。
・自分達の取り組みを通りすがりの客さんに立ち止まって聞いてもらえるような発表方法を工夫する。
○直売所に場所を借りて、お客さんに向かって、自分達の学習の成果を発表する。
◇今までの体験から、販売物を作る大変さと楽しさ、環境への配慮・直売所の取り組みと関連している3Rの活動などを報告させる。
〔発表パネル、活動内容のビデオ上映〕

※1「リサイクル野菜」生ゴミと野菜を交換して生ゴミを回収し、それを堆肥にして野菜を生産する循環システム

● その後の展開例等

事例プログラムI(いぐねの学校)を学校に出前授業で行う場合は、最初の1〜2時間では、①いぐねの学校やいぐねの暮らしについてのビデオ(20分)をみて、ワークショップを行う(45分)。②いぐねの樹木地図を使って、どんな樹木が植えられているのか、その樹木は何のために使われているのかを討論する(45分)。学校で米づくりを行っている場合は、学校田やバケツ稲の観察で代替する場合もある。
後半の3〜4時間では、①蒸し竈を使って、ご飯を炊くために、木炭に火をおこす。羽釜にはお米を研いで、水加減をして準備する(45分)。②蒸し竈を使って、ご飯を炊く(30分)。ご飯を炊いている間に、石臼で黄な粉を作る。またすり鉢で、岩塩をすりつぶしておく。ご飯が炊けたら、みんなで炊き立ての試食(45分)をする。

事例プログラムIIは、地域の農産物直売所を探して、体験学習を実施する。
また事前学習としては、スーパーマーケットのチラシを使って、フードマイレージ計算を行う。これは、スーパーのチラシから、なるべく地産地消の野菜や果物を10種類選ぶ。フードマイレージの評価は、外国産5点、国内産4点、地方産(東北地方)3点、県内産2点、自分の市町村産1点で評価して、点数を競って、フードマイレージを実感する(評点の少ないほうがフードマイレージは小さい)。

● 地域で実践するときの補足情報

  • プログラム所有団体が提供できるリソースやその条件
    図鑑やワークシートの事例情報を提供できる。