木のパワーを探ろう!
〜使って守る森と住まい・まちの創造人材育成〜
このプログラムは、「一般社団法人 日本建築学会」のプログラムを基にしています。
● プログラムの目標 | 昨今、木を伐ってはいけないと漠然と思い込んでいる子どもたち(教員や保護者などの大人も同様)が多い。しかし、我が国独自の風土に継承されてきた木の文化は、今後の日本における持続可能な社会のあり方を指し示している。 本プログラムの目標は、具体的な経験や知識の統合を通して、木を伐って大切に利用していくことも環境の保全につながると理解することである。特に環境については、①居住環境・周辺環境(身近な生活に関わる部分)、②地域環境(地域の自然の保全や産業に関わる部分)、③地球環境(地球温暖化や資源枯渇に関わる部分)の3つに分けて考え、それぞれの環境に対する木の影響・役割を明らかにしていく。 |
● プログラムの概要 | 身近にある「木」を題材とし、木が森林や木材など形を変えながら環境にどのように役立つかを学ぶプログラムである。校舎に使われる木材や校庭の樹木などの身近な木を見直し、地域の木に関わる仕事を知り、木と親しむために工作を行い、樹木の大きさを測って固定炭素量を求める。森林が近くにない都市部でも「木を知る」ことが可能である。小学6年間で得た知識を総合的に使い、学校内外の人的・物的資源を発掘して活用し、実際に体験・体感しながら木の役割を多面的に理解するとともに、持続可能な社会を考えることを通じて、科目・単元毎に断片的であった学習内容が統合され、生活に応用できる知識とすることができる。 |
● 学習指導要領との関連
学年 | 教科・領域 | 学習内容 |
小学校5年 | 社会 | 2 (1)我が国の国土の様子と国民生活について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (イ) 我が国の国土の地形や気候の概要を理解するとともに,人々は自然環境に適応して生活していることを理解すること。 イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。 (ア) 世界の大陸と主な海洋,主な国の位置,海洋に囲まれ多数の島からなる国土の構成などに着目して,我が国の国土の様子を捉え,その特色を考え,表現すること。 2 (5)我が国の国土の自然環境と国民生活との関連について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。 (ア) 災害の種類や発生の位置や時期,防災対策などに着目して,国土の自然災害の状況を捉え,自然条件との関連を考え,表現すること。 (イ) 森林資源の分布や働きなどに着目して,国土の環境を捉え,森林資源が果たす役割を考え,表現すること。 |
小学校6年 | 社会 | 2 (2)我が国の歴史上の主な事象について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。 (ア) 世の中の様子,人物の働きや代表的な文化遺産などに着目して,我が国の歴史上の主な事象を捉え,我が国の歴史の展開を考えるとともに,歴史を学ぶ意味を考え,表現すること。 2 (3)グローバル化する世界と日本の役割について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア) 我が国と経済や文化などの面でつながりが深い国の人々の生活は,多様であることを理解するとともに,スポーツや文化などを通して他国と交流し,異なる文化や習慣を尊重し合うことが大切であることを理解すること。 (イ) 我が国は,平和な世界の実現のために国際連合の一員として重要な役割を果たしたり,諸外国の発展のために援助や協力を行ったりしていることを理解すること。 (ウ) 地図帳や地球儀,各種の資料で調べ,まとめること。 |
小学校6年 | 理科 | 2 B 生命・地球 (2)植物の養分と水の通り道 植物について,その体のつくり,体内の水などの行方及び葉で養分をつくる働きに着目して,生命を維持する働きを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 イ 植物の体のつくりと働きについて追究する中で,体のつくり,体内の水などの行方及び葉で養分をつくる働きについて,より妥当な考えをつくりだし,表現すること。 2 B 生命・地球 (3)生物と環境 生物と環境について,動物や植物の生活を観察したり資料を活用したりする中で,生物と環境との関わりに着目して,それらを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 イ 生物と環境について追究する中で,生物と環境との関わりについて,より妥当な考えをつくりだし,表現すること。 |
小学校6年 | 算数 | 2 B 図形 (1)平面図形に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア) 縮図や拡大図について理解すること。 2 B 図形 (3)平面図形の面積に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア) 円の面積の計算による求め方について理解すること。 2 B 図形 (4)立体図形の体積に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア)基本的な角柱及び円柱の体積の計算による求め方について理解すること。 |
小学校5〜6年 | 家庭 | 2 B 衣食住の生活 (6)快適な住まい方 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア) 住まいの主な働きが分かり,季節の変化に合わせた生活の大切さや住まい方について理解すること。 2 C 消費生活・環境 (2)環境に配慮した生活 ア 自分の生活と身近な環境との関わりや環境に配慮した物の使い方などについて理解すること。 イ 環境に配慮した生活について物の使い方などを考え,工夫すること。 |
小学校5〜6年 | 図画工作 | 2 A 表現 (1)表現の活動を通して,発想や構想に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。 ア 造形遊びをする活動を通して,材料や場所,空間などの特徴を基に造形的な活動を思い付くことや,構成したり周囲の様子を考え合わせたりしながら,どのように活動するかについて考えること。 |
小学校5〜6年 | 総合的な学習の時間 | (5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題,児童の興味・関心に基づく課題などを踏まえて設定すること。 |
● SDGsの要素
木が木材に形を変え,住居や生活に役立つことに気づき,持続可能な社会について考える。 | |
樹木の大きさを測って固定炭素量を求め,地球温暖化への木の影響を知る。 | |
多様な木の役割を理解し,地域の木に関わる仕事を知るとともに,自然の保全を大切にする姿勢をもつ。 |
● ESDの要素
木に関する地域の職場を訪問し,直接対話によって情報を得ながら,ものづくりの面白さや仕事への興味を高める。 | |
持続可能な社会について理解を深めながら,居住環境・周辺環境などにおける木の役割を多面的に理解する。 | |
固定炭素量を求める活動などを通して,限りある地球の資源の中で,木の環境を守る効果を知る。 |
● プログラム(単元・題材)の展開の流れ
11時間
活動、学習内容 | 指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物) | |
1時間目 | 木でできたものが身近にたくさんあるよ | |
①「木の印象」を書き出し、自分と友達の考えを共有する。 ②自分の家や学校の「木」でできたものを探す。 ③①や②の結果を使って、木の長所と短所を探し、木の性質や特徴を知る。 ④③について発表し、互いの考えを共有する。 | ①「木」の肌触りや使われ方、温暖化防止など、知っているキーワードをあげさせる。 ①−2ウェブマップを活用しても良い。 ➁学校の物で例示できるとよい。 ➁—2樹木→木材→木製品・建築のつながりを実感させる。 ③木の長所・短所の両方を意識させ、うまく活かすことの考えに繋げる。 ○支援:校庭樹種判別 〔校内の身近な木製品(鉛筆、椅子、扉等)、ワークシート〕 | |
2・3・4時間目 | 地元にある木の職人の仕事の意味を考えよう | |
①地元にある木の職場の訪問準備として、仕事やその役割を考え、質問項目を整理する。 | ①1校時を振り返り、木のモノづくりを想像させる。 ②コミュニケーションによって情報を得る大切さに気づかせる。 ①②キャリア教育として実践可能。 ○支援:学校近隣の木に関する仕事の発掘。 (例:家具工房、製材所等) 〔質問シート〕 | |
5・6・7時間目 | 木を使って作ろう | |
①材料がどこから来たものかを確認し、木の観察とスケッチをして、木材の面白さを知る。 ②家で使える物の見取り図を作成して工作する。 ③作品発表をして、自分や友達の意見も聞き、課題を見つけて話し合う。 | ②木に対して五感で感じられるよう、材料の観察にも時間をかける。 ○支援:2・3・4校時で訪問した職場で使う木や地域性を考慮した木材料の選定。 〔木工作の材料、スケッチ・見取り図用シート〕 | |
8・9時間目 | 木の身体測定をしよう | |
①植物が育つ仕組みを思い出し(光合成の復習)、木の身体測定の目的(右欄参照)を理解する。 ②校庭の樹木の幹の高さと太さ(胸の高さの位置)を測定する。 ③木も光合成によって成長しているため、その過程で蓄えた炭素量を、②で測定した円柱の体積から試算する。 ④③の炭素量から逆算して、木が吸収した二酸化炭素量を換算する。 ⑤計算結果をグループで比較したり、身近な量と比較して、分ったことを発表する。 | ①本時は温暖化防止に役立つと言われる木の二酸化炭素を吸収するしくみと、10校時で学ぶ「長く使い続ける」ことへの気づきを得ることが目的となる。 ①—2理科「光合成」ではデンプンの生成までだが、それが植物の体を作るのに利用されることを付け加える。 ②杉・イチョウなど縦長な樹形が望ましい。 ③計算ワークシートを使いながら、グループで式を理解してから計算できるとよい。 ③—2幹の固定炭素量の計算式 ・幹の重さ(kg)=幹の体積(㎥)×その木の容積密度(kg/㎥)(例:スギ350kg/㎥、イチョウ550kg/㎥ ) ・幹の固定炭素量(kg)=幹の重さ(kg)×0.5(炭素含有率) ④二酸化炭素量の計算式 ・木が吸収した二酸化炭素量(㎥)=幹の固定炭素量(kg)×1.87(㎥/kg)(1.87を約2 として計算してもよい) ④—2計算した炭素量や二酸化炭素の量を身近な量(重さ、体積)と比較できるとよい。 (例:樹木1本の吸収量が教室●個分の二酸化炭素の量に等しい) 〔教員用の大きい三角定規と固定台(椅子等)、 巻尺(長いもの)、 計算ワークシート〕 | |
10・11時間目 | 木のパワーをまとめよう | |
①種明かしのための資料等(*1)を使って、これまで学んだことを振り返りながら、木の多様なパワーを知る。 ②グループごとに木の多様なパワーについて、疑問や新たなパワーや活かし方などを話し合い、発表する。 ③①-1で作成した自分の「木の印象」に②で気づいたことを追加記入しキーワードを整理する。 ④整理した内容と感想によって、自分の考えを伝えながら、友達の考えも聞く。 | ①木が循環型の材料であることを知る。 ①-2木を植え、育て、伐って建築や家具・道具として、出来るだけ長く大切に使い、いずれ寿命となっても、人工林にはまた木が植えられ育っていることで、循環していることに気づくよう「森と木と建築と二酸化炭素の循環の図」を皆で考えて描くとよい。 ②③「気づき」のポイント ・生活の中でどのように活かせるか ・これからどんな行動を取ればいいのか ③-2「木の印象」に書き出したキーワードを「身近なこと(居 住環境・周辺環境)・まちや地域のこと(地域環境)・地球規模のこと(地球環境)」と、整理して、意見をまとめるとよい。 |
● その後の展開例等
(1)1時間目の補足事例
・①を実施する前に、②の自宅で「木で出来たもの探し」をさせ、自分の身近に木で出来たものが多くあることに気づかせる。
・木に親しむために、木のトランプ(*2)で札合わせを行い、匂いや肌触り・重さ・色などを観察させる。
(2)8・9時間目の補足事例
・木の高さの測り方を児童自らで考えて提案させて、それを実践する。
(3)10時間目の補足
・光村書店の国語の教科書を使用する場合は、「森へ」という文章を用いる単元で登場する原生林と、植えて伐って使って守る森(人工林)の違いにも気づかせる。
● 地域で実践するときの補足情報
○日本建築学会が協力できること
◆プログラム作成団体が提供できるリソースやその条件:
・8・9時の「木の身体測定をしよう」においては、「木の光合成の解説スライド」の提供、「固定炭素量」の内容理解の補助、測定・計算の実施補助・炭素吸収量の目安の提示、計算ワークシートの提供が可能である。また10・11時の「木のパワーをまとめよう」では種明かしのための資料等(*1)を用いて内容解説・情報提供を行うことができる。
・木のトランプ(*2):50数種類の樹種がカード状に各2枚ずつ加工されたセット。樹種名を伏せて、トランプの神経衰弱のように札合わせをして遊べる。
商品化前だが実費での提供が可能。(「その後の展開例等」欄(1)参照)
・東京都杉並区では実践校の紹介が可能である。東京・首都圏ではプログラム作成メンバーから直接指導・助言が可能である。
◆プログラム作成団体がかかわらない場合の代替リソース案:日本建築学会の子ども教育支援建築会議は全国各支部(四国支部を除く)に計120名余りの会員がおり、作成メンバーが頻繁に行けない地域では、会員の協力・連携を得て、指導・助言が可能である。またこれまでも地元建築士会等から協力を得ており、他地域においても同様の協力を得ることは可能と思われる。
◆地域色が強いプログラムの、他の教材での展開可能性:森林のない都市部においても可能なプログラムとなっている。地域ごとに特徴ある木製品や森林資源を、身近な素材として活用し、それに関わる職業の方の協力を得ることが考えられる。地域で活用できる人的資源・物的資源を発掘するところから、既に本プログラムの実践は始まっていると考えている。
◆本件のご相談窓口:日本建築学会子ども教育支援建築会議事務局