生き物たちとの持続可能な社会を考えよう
(自然調和型社会学習プログラム)

このプログラムは、「岡崎市立新香山中学校」のプログラムを基にしています。

● プログラムの目標生態系の大切さを理解し、人間もその一員であるという意識を育てるとともに、身近な地域で起きている「獣害」に着目し、多様な視点から獣害を考えることを通して、持続可能な社会づくりに前向きに取り組むようにする。
● プログラムの概要近年、全国の山々でサルやイノシシ、シカが人の居住区域で田畑を荒らしたり、農作物を食べたりする「獣害」が報告されている。その原因として考えられるのは、新興住宅地の開発だけでなく、間伐や下草刈り、緩衝地帯の維持などの山の保全活動が進められていない現状もある。生徒にこれらの現状を学ばせるとともにこれらの現状を地球温暖化と結びつけ、生き物と人間の共生の在り方について考えを深め、持続可能な社会を創るために自分たちは何をしたらよいか考え、行動できるようにしたい。

● 学習指導要領との関連

学年教科・領域学習内容
中学校1~3年総合的な学習の時間(5)目標を実現するにふさわしい探究課題については,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などを踏まえて設定すること。
中学校1
理科(第2分野)2 (1)いろいろな生物とその共通点
ア いろいろな生物の共通点と相違点に着目しながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 生物の観察と分類の仕方 
㋐ 生物の観察
校庭や学校周辺の生物の観察を行い,いろいろな生物が様々な場所で生活していることを見いだして理解するとともに,観察器具の操作,観察記録の仕方などの技能を身に付けること。

● SDGsの要素

新興住宅地の多すぎる開発や山の保全活動不足の現状を理解し,持続可能な地域づくりを考える。
環境悪化の現状を地球温暖化と結びつけ,生き物と人間の共生について考えを深める。
絶滅危惧生物や外来生物の問題から,地域や世界の生態系の環境状況を考える。

● ESDの要素

近隣の自然保護活動の実態を知ったり,害獣対策に取り組んでいるゲストティーチャーから話を聞いたりする。
さまざまな視点から「獣害」を考えることを通して,持続可能な社会づくりに取り組む。
生き物と人間の共生の在り方について考え,持続可能な社会のために自分たちは何をしたらよいか考える。

● ESDの能力・態度

「獣害」と人間の活動を関連づけて捉え,地域の生態系の変化が世界とも関わりがあることに気づく。
生態系の大切さを理解し,人間もその一員であるという意識をもつ。
新興住宅地の開発や山の保全活動不足などの問題を知り,人間による自然保護の必要性を理解する。

● プログラム(単元・題材)の展開の流れ

9時間

活動、学習内容指導、支援の方法、ポイント等(教材・必要物)
1時間目絶滅の危機 身近な生物が危ない!
○タンポポなどに着目しながら、身近な生物で絶滅の危機に瀕している生物を調べる。
・理科で学習した身近な植物調査の結果
・地域で指定されている絶滅危惧生物
◇セイヨウタンポポとニホンタンポポなど、身近な生態系の状況を提示し、絶滅危惧生物について問題意識を高めるようにする。
◇外来生物が駆逐している状況など、絶滅危惧種と外来種との関係を考えるようにする。
2時間目絶滅危惧種の数が減らない理由を考えよう。

○「レッドデータブック」などを使って、身近な生物で絶滅の危機に瀕している生物を調べる。
・レッドデータブックに載っている生物を確認するとともに、問題視されながらも改善されていない理由を考える。

◇「レッドデータブック」を利用し、どのような生物が載っているか確認できるようにする。
◇生物保護活動が営まれていながらも、レッドリストに記載されている数が増えている原因を考える場を与える。
◇生物の現象の原因に、人間の営みが大きくかかわっていることに気付くようにする。
3時間目在来種のために外来種を駆除するべきか、人間の行動を話し合おう。
○全国各地の池でカメの駆除を行う新聞記事を読み、概要をつかむ。
○外来生物を駆除することについて話し合う。
・賛成…生態系を考えれば仕方ない
・反対…人間の身勝手だと思う
◇外来種カメの生態や日本に持ち込まれた経緯などを確認する。
◇「琵琶湖」などでの外来種駆除の事例を扱ってもよい。
◇外来種の駆除をすることの賛否について、自分の考えを持つことができるようにする。
◇外来種の駆除について、多様な意見を尊重する。
4・5時間目学区の生態系はどうなっているのだろう。(学区のバイオリージョンマップをつくろう)
○バイオリージョンマップを作成し、地域環境の状況をまとめる。
 ①外来生物
 ②希少生物
 ③昔の地域の自然
 ④環境に影響を与えるもの
◇自宅周辺の情報を地図に書き込み、下調べを行う。(夏休みなどに行うとよい)
◇グループや学級で情報を共有し、マップを作成する。
◇地域の生態系の変化の特長が浮かび上がるようにする。
6時間目バイオリージョンマップ報告会をしよう。
バイオリージョンマップ報告会の実施
・イノシシやシカ、サルの被害
・外来生物の侵入
 ヌートリアアカミミガメブラックバス
・住宅地などの開発
◇追究課題に合わせてグループを構成し、追究する場を設定する。
◇地域の問題として獣害が浮かび上がるようにする。
◇地域の生態系の変化が世界の生態系の変化と関連があることに気付くようにする。
7時間目獣害について知ろう。
○地域の生態系の課題である「獣害」について追究する。
〔獣害でおさえたい学習内容〕
・森の環境変化(地球温暖化等が原因)
・駆除の目的(個体数調整の必要性)
・捕獲動物の処理(資源として考える)
◇獣害を焦点化し、現状と対策についての情報を共有する。
◇害獣対策に取り組んでいる人をゲストティーチャーとして招聘する。
◇害を与える生物も自然破壊によって被害を受けていることをおさえ、人間による自然保護の必要性を実感できるようにする。
・間伐 ・下草刈り ・植林(人工林)
8時間目徹底討論!「獣害について考えよう」
○討論会「獣害を引き起こす動物をどうしたらよいのだろうか」
〔駆除する〕
・人間の生活を優先すべき
・他の地区でも駆除している
〔駆除すべきでない〕
・動物たちも人間による被害を受けている
・駆除しすぎると絶滅の恐れがある
◇「被害を受けている人」「害獣」「動物保護の人」「自分」などの立場による考えを整理する。
◇答えを絞るのではなく、生徒それぞれの思いを明らかにする。
◇共生社会のイメージについて考える場面を設けたい。
◇人間と動物の「棲み分け」が共生社会のキーワードであることに気付いた意見や感想は取り上げる。
9時間目持続可能な社会実現のために私たちができることを考え、行動しよう。
○自分たちがやってみたい活動を発表する。
・河川美化活動・下草刈り
・ごみの減量・温暖化防止活動(環境家計簿づくり等)
○地球温暖化対策の必要性を実感し、来年度の学習につなげる。
◇生物多様性の維持の活動をグループで考え、発表する場を設定する。
◇近隣の小中学生の自然保護活動の実態を知ったり、これまでの自分たちの保護活動の価値付けをしたりしてすすめる。
◇最後に自分の生き方のキーワードを発表したり、記録したりする場を設ける。

● その後の展開例等

〈2・3年生の学習内容〉
1年で実施するこのプログラムを受けて、さらに次のような学習を展開することができる。
「地球温暖化防止に向けてエコ活動を進め、持続可能な社会を考える」
①エネルギー教室 ②『CSR』学習会 ③環境家計簿交流 ④エコアクション ⑤職場体験学習と企業のエコ活動 ⑥Web(テレビ)会議
*③では、環境家計簿に取り組み、エコ活動を実施する中でエネルギーのあり方を考えたり、持続可能な社会をイメージしたりする。
*⑥では、各学校で行われている環境学習や復興に挑む中学生の取り組みに学び、持続可能な視点で街作りを考える。

● 地域で実践するときの補足情報

〈レッドデータブックとレッドリスト〉
 ※出典:生物多様性情報システム,インターネット自然研究所

〈バイオリージョン〉
バイオリージョンとは、「生命地域」と訳され、気候、地形、流域、土壌、野生生物など、生態的なつながりをもつ地域のことをいう。持続可能な地域をつくるためには、バイオリージョン内での生態系のつながりや循環を復元することが大切だと言われている。地域環境の生態系のつながりは、地図に落とすことで視覚的に把握しやすくなる。
 (参考文献 サステイナブルデザイン研究会「2100年未来の街への旅」学研)